Definitive Eric Coates
Coates
Nimbus Records
2013-11-12
「決定版エリック・コーツ、その商業録音のすべて1923-1957」

昨年(2013年) 7月31日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われたプロムス2013のコンサート。放送したのはオーストリア放送協会(ORF)で、ORFがイギリス音楽を紹介するのって、とても珍しいことだと思う。プロムスという一大イベン卜でのコンサートなので取り上げられたのだろう。

指揮者のバリ一・ワーズワースは、1948年生まれのイギリスの指揮者。バレエ音楽に造詣が深く、イギリスのロイヤル・バレエ団やバーミンガム・ロイヤル・バレエ団の音楽監督を歴任している。

BBCはオーケストラをたくさん持っているのでややこしいが、BBCコンサート・オーケストラは、BBC専属のオーケストラの中で唯ーのポップス・オーケストラだ。ワーズワースは、1989年から2006年まで、このオーケストラの音楽監督を務めている。

この日のコンサートは、Prom24「British Light Music」と題して比較的軽めのイギリス音楽が取り上げられている。最初はバントックの「演奏会用序曲“土壇場のピエロ”」。オーストリア放送でバントックが流れること自体非常に珍しいのではないだろうか。

曲は、チャイコフスキー張りの、舞台を彷彿とさせるような音楽で、いかにもバレエや劇に伴う曲って感じ。バントックは管楽器の扱い方がとても上手く、色彩感豊かな音楽が展開される。チャイコフスキーほどではないがキャッチーで甘いいメロディも出て来て雰囲気豊かだが、目の前のフレーズは魅力的でも、曲全体としての起承転結が見いだせず、結局どんな曲だったか印象に残らなかった。この辺りがバントックが国際的に認知されず、イギリスの作曲家に止まっている理由かも。

工ルガーの「組曲“子供部屋"」は最晩年の作品だが、「子供の魔法の杖」と同じように作曲家の若い時のスケッチを利用して作られている。曲は夢見るような甘い雰囲気で始まり、 途中いかにもエルガーらしい行進曲風の堂々としたフレーズがでてきたりする。

全部で7曲による組曲となっているが、後半はどこまでが1曲なのか分からなかった。ソロ・ヴァイオリンが活躍し、珍しく瞑想的で複雑な音楽が続くが、イギリス音楽らしいメランコリックな所も垣間見えさせる曲だった。

マルコム・アーノルドの時代になると、音楽は一層複雑になるが、アーノルドの作風が分かり易くエンターテイメントを重視した物なので、深刻さや晦渋さは感じることはない。第一楽章はいきなり華麗できらびやかなフレーズの連続。ピアノが水晶のキラメキをまき散らすように乱舞している。所々不協和音が入っていて現代的だが、メロディは甘く、管弦楽は派手で演奏効果抜群だ。

第2楽章はとても静かでムード音楽かヒーリング・ミュージックと言ってもいいくらい。大甘なセンチメンタル恋愛ハリウッド映画音楽のよう。陶酔的で中間部では大きく思わせぶりに盛り上がったが、3手のピアノの絡みも結構面白い。

第3楽章はジャズ。途中からかなり陽気な雰囲気になり、叫び声をあげてはしゃぎまくっている。これには観客も大喜びだった。

ウォルトンの戴冠行進曲「王冠」は、1937年5月12日に予定されていたエドワード8世の戴冠式のために作曲された曲。しかし、エドワード8世は1936年に退位し、その日は代わって即位した弟のジョージ6世とエリザベス妃の戴冠となったそうだ。

派手にブラスが活躍し、後半流麗で懐かしさのこもッたメロディを弦が奏でる英国風行進曲で、最後のトランペットのファンファーレが凄い盛り上がりを見せた。

エリック・コーツは「ライト・ミュージック」という、メロディがハッキリしているオーケストラを使ったポピュラ一音楽を書いた人で、イギリスでは結構有名だ。最近ニンバスからコーツの音楽を集めた7枚組CDが発売されるなど、その音楽を見直す機運が高まっている。

組曲「3人のエリザベス」の第1曲「黄金時代」は1967年BBCテレビ番組「フォーサイド家物語」のテーマ曲にもなっていたそうだが、完全に昔のハリウッド映画か、アメリカン・ホームドラマのテーマ音楽のようだ。平和でほのぼのとして、メロディ中心の楽曲だけど、オーケストレーションもよく考えられていて、手を変え品を変え楽しませてくれる。主題となるメロディがあまりに何回も出て来るのにはちょっと閉口してしまった。

第2曲「アンガスの春」はオーボエのメロディが美しい曲。のんびりした気楽な曲で、懐かしい郷愁を誘われるような音楽だ。

第3曲「英国の若者」はその名の通り、運動会でかかりそうなテンポの速い行進曲。あまり悩みのない時代の音楽って感じで、スポーツ番組のテーマ曲に相応しい。全然深刻な所がなく、あっけらかんと能天気で、聴いていて思わず顔が綻んでしまった。最後は工ルガ一風に英国の夕映えを描いているようだった。

1.グランヴィル・バントック(Sir Granville Bantock,1868~1946)
 「演奏会用序曲“土壇場のピエロ”("The Pierrot of the Minute",Comedy Overture)(1908)」
2.エドワード・エルガー(Edward Elgar)
  「組曲“子供部屋" (Nursery Suite)」
3.マルコム・アーノルド(Malcolm Arnold,1921~2006)
 「2台3手のピアノのための協奏曲(Konzert fur zweiKlaviere (zu drei Handen) und Orchester op. 104)」
4.ウィリアム・ウォルトン(Sir William Walton, 1902~1983)
 「戴冠行進曲“王冠” (Crown Imperial, Marsch)」
5.エリック・コーツ(Eric Coates, 1886~1957)
 「3人のエリザベス(The Three Elizabeths)」
 1.黄金時代(Halcyon Days (Elizabeth1.)
 2.アンガスの春(Springtime in Angus (Elizabeth of Glamis, the Queen Mother)
 3英国の若者(Youth in Britain (Elizabeth II)
ピアノ:小川典子(Noriko Ogawa)、キャスリーン・ストット(Kathryn Stott)
指揮:バリ一・ワーズワース(Barry Wordsworth)
演奏: BBCコンサー卜・オーケストラ(BBC Concert Orchestra)
2013年7月31日ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール(Royal Albert Hall)
オーストリア放送協会 この演奏が聴けるサイト(あと1日くらい聴ける)

Prom24British Light Music
Prom24 British Light Music