第3回ノギザカッション小説大賞を受賞されました「ねこなべ」様より、妄想小説をいただきました。


 良い物語は、ENDマークのその先を読者が想像できます。それは物語に生きるキャラクターが活き活きと描写されているからに他なりません。まるで"死んでいる"かのようなキャラは読者の中で動いてくれませんから。


 今回の小説は、まさに続きが無数に想像できる物語です。

 短い文章に詰められた、"その先"の可能性に触れてください。


ねこなべ様の過去の投稿記事



 20180202-05



小説に生きる人

作者 ねこなべ





登場人物:齋藤飛鳥
三上啓太
堀未央奈


 「最近の若者は活字離れだ」という声が上がる昨今。少なくとも僕はそんなことはないし、本を読むことが好きだ。そして、物語を考えることも好きだ。自分が描くストーリーに出てくる人物には、とても思い入れがあって、みんな物語のなかで生き続けている。幸せな人も、時には不幸な人もいる。僕はそのことを受け止め、忘れないようにしている。作者は読者に対して、何か伝えたい意志があって書いている。作中人物の心情や行動にリアリティを持たせることで、感情移入できる文章や、頭の中に思い浮かぶ文章を作りあげる。その背景には、ち密な構想設計があり、一つの作品を書き上げるということはとても難しいことだと、実際に書いてみてわかったことだ。

「啓太、何してるの?」
「ああ、未央奈か。今はまた小説のこと考えてるの」
「毎日そればっかじゃん。たまには私のことも気にしたらどうなの、小説おバカさん」
そう話すのは堀未央奈。僕と同じ年で、同じ大学に通っている。そして、僕の彼女でもある。お互い21歳になり、付き合い始めて8ヶ月が経とうとしていた。先日の誕生日も祝ったし、記念日を設けてご飯を食べに行ったり、出かけることもしている。これが彼女なりのかまってほしい合図だということを僕は知っているし、彼女もそのつもりでやっているのだろう。

 僕はこれまでに5つの物語を書いた。誰に見せるわけでもないが、いつかは誰かの目に留まるようにと考えてはいる。そして今は新しい小説を書いている途中だった。
主人公は秋に引っ越しを控えており、幼馴染である好きな女の子に話せないまま夏休みを迎えた。その幼馴染も主人公のことが好きなのだが、長年告白できないでいた。そこでお互いの親友たちが海に行くことを提案。そこで告白させ、恋を成就させようという青春恋愛物語だ。
ありきたりな話しではあるが、書きあがるまで、もう少しのところまで来ている。その幼馴染の名前が「齋藤飛鳥」という名前で、僕が描く人物像としては恋愛は苦手で、ベタベタするのも苦手。だけど、明るい一面もあって、面白いことは好きだし、話しだすとずっと喋って、お調子もので愛される一面があって。僕もまた、この子に愛着があった。

「今は、忙しいの。だから、また今度な」
「啓太のケチ」
「ケチとはなんだ」
「ケチなものはケチ。本と結婚しちゃえばいいのに」
「わかったわかった、今日の授業終わったら、ご飯でも食べに行くか?」
「やった!今日は中華食べたいの!」
目の前で満面の笑みでいる未央奈は、ご飯のことになると相変わらず元気だ。いつかは未央奈がモデルの話しとかも書くのだろうか。いや、また今度考えればいい。時間はまだたくさんあるのだ。

「17時に校門で会おっか!」
「りょーかい。それまでお腹すかせておきな」
「お腹すかせて、啓太がびっくりするくらい食べちゃおっと」
「はいはい、相変わらず未央奈は食いしん坊だな」
「ご飯食べてる時が一番幸せだからね。じゃあ、またあとで!」
そう言うと僕のもとを離れ、次の授業へと向かった。

「さっ、俺も授業に向かいますか」
机に広げていた原稿を鞄にしまい、僕も次の授業へと向かった。


 僕の授業が終わったのが、16時半だった。少し時間に余裕があったので、教室で先ほどまで書いていた原稿を見返すことにした。話しの頭から改めて読み進めていき、書き終えたところまで。
「あれ?おかしいな」
一つおかしな点に気付いた。次は齋藤飛鳥のセリフから書き始めるところで一旦書き終えたのだが、その続きが書かれていたのだ。主人公の『直樹』がようやく飛鳥に想いを伝えたのだが、素直になれず、飛鳥を傷つけないために本心を出さなかったという場面だ。

『なにそれ、直樹のバカ!飛鳥は、その場を立ち去ろうとした』

こんなセリフ、書いた記憶がない。
「どうなってるんだ?」
不思議で仕方がなかった。考えている時間もつかの間、ポケットに入ってるスマホに着信があった。
「啓太、もう校門前にいるよー!」という文と、テンション高い感じのスタンプが送信されてきた。

「まぁいっか。考えても無駄だな」
僕は特に気にも留めず、未央奈のもとへ急いで向かった。


「はぁー、美味しかったー」
「どんだけ食べるんだよ。男の俺よりも食べてるぞ」
「だって美味しいんだもん」
相当お腹をすかせてきたのだろう、未央奈は僕の倍の量を食べており、お会計をしたときはさすがに驚いた。
「まさか、1万以上もするとは…」
今度ご飯行くときは僕からもセーブをかけるよう注意しよう、そう心誓った。

「私、電車向こうだから。啓太は反対だよね?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、また明日ね」
「また明日な。気を付けて帰れよ」
「啓太もね」
駅のホームで挨拶をし、お互いの最寄駅へと向かう電車へと乗り、帰宅するのであった。


 家に着くと、僕は鞄から先ほど不思議に思った自分が書いている小説をもう一度見直した。やはり書いた記憶のない文が残されている。まるで「齋藤飛鳥」という人物が本当にその言葉を発したかのように思えた。
「でも、このセリフ。なんかしっくりくる」
この物語の続きは、また今度にしよう。今日はまとめなければいけないレポートがある。鞄からその講義でしようしている教材を出し、パソコンの電源を入れた。パソコンの電源を入れた後、USBを差し込み、途中まで仕上げたレポートのデータを開いた。
「さて、やりますか」

レポート作成のために、教材を開き、おさらいをすることにした。ある程度読み進めていき、まとめに取り掛かろうとした時だった。
「ん?これは…」
内容が少しおかしいことに気付いた。アメリカの歴史学で、ゴールドラッシュについての内容が書かれている。しかし、とある一文がおかしい。「齋藤飛鳥という人物もまた、ゴールドラッシュの時代に生きた人物だった」
おかしい。おかしすぎる。以前読んだときはこんなことは書かれていなかったはずだ。レポートの完成どころの話しではない。自分が生み出した「齋藤飛鳥」という人物が、教材に移動したのだ。
「こんなことありえるのか?」
もし移動できたとして、その移動手段がわからない。ただ、わかっていることは自分が書いた小説と教材を同じ鞄に入れていたということだ。
「もしかして、近くに本があるだけで移動するのか」
試しに本棚から『三毛猫ホームズの推理』を取り出した。そして、教材の近くに置き、1分ほど待ち、「たったこれだけで移動ができるのか?」と半信半疑になりながら、小説を開いて探してみた。
「齋藤飛鳥…齋藤飛鳥は…」
なかなか出てこない。この方法ではダメなのか?と疑問に思った時だった。
「あっ、いた」
それは、殺されてしまった学園の理事長と秘密に付き合っていた女子生徒の役だった。しかも割と重要人物だったりする役ではないか。しかし、これで証明されたのは、近くに小説、あるいは本があることで齋藤飛鳥という人物が移動できるということだった。
本を自由に移動できる齋藤飛鳥に、僕はますます惹かれていった。
「これ、会話することはできないのかな」
僕はノートを一枚破り、文字だけの会話をしてみることにした。
「齋藤飛鳥さん、僕の小説は好きですか?」
先ほど移動していた三毛猫ホームズを近くに置いて、少し待ってみることにした。ただ、自分が紙を見つめていると現れないような気がしたので、離れた場所で待機した。

3分後。
自分の机に戻り、さっき書いた紙に変化がないか確認した。
「おおっ!?」僕は驚きのあまり大声を出してしまった。
「私は嫌いかなー。だって主人公ははっきりしないし、自分で勝手に悩んで、勘違いしちゃって。女の子は好きって言ってもらえるだけで十分嬉しいんだと思う」
なんと返事が来たのだ。こんなことありえない!
僕は続けて質問してみた。
「齋藤飛鳥さん自身はどうですか?」
僕は目を離し、返事を待った。

1分後
「今回は可愛くて恥ずかしがりな女の子役やってあげてるんだから、勘違いしないでよね。本当は根暗だし、わいわいするのとか苦手だし。あっ、でも仲の良い子といると飛鳥ちゃんっぽいねって言われるなー」
今度は返事が早い。しかもツンデレだ。本当はかまってほしいタイプの人だな。しかし、周りの人って誰なんだ。本の中の人物か?知れば知るほど面白い魅力が出てくる齋藤飛鳥に、僕はハマってしまった。僕は、今日最後の質問をした。

「これからも、僕の小説に出てくれませんか?」
その言葉を書き終えると、僕はレポートもやらずにすぐに寝てしまったのだった。


次の日。
机に置いた紙を見た。
「しょうがないから、出てやってもいいよ」と返事がきていた。
「素直じゃないんだから、まったく」
その返答にクスっと笑ってしまったが、絶対に良い女の子だろうなと、頭の中でまた新たな物語の構想が思い浮かんだ。これは学校で書くとしよう。僕は齋藤飛鳥とやり取りした紙を鞄の中に入れ、学校へと向かうのであった。

 学校へ着くと校内にあるフリースペースで、今書いている途中だった小説を書くことにした。タイトルは『いつもと違う夏』というもので、このあとの展開は齋藤飛鳥の一言により、主人公は好きな想いを伝え、最後は二人は付き合うという終わり方だ。この物語も終盤だ、齋藤飛鳥にどのような行動をしてもらいたいか、僕は頭の中ではもう展開はできていた。行動も、セリフも。
「でも、齋藤飛鳥なら何て言うのだろう」
気になって聞いてみることにした。
「あなたならこの物語をどう締めますか?」
齋藤飛鳥の答えがほしかった。本当はこうしたかったという意見があるかもしれない。僕は自分の書いた小説と、昨日から一枚の紙のなかで生きている齋藤飛鳥を近くに置いた。しかし、3分、5分、10分と待っても返事がない。マズいことを聞いてしまったのだろうか。僕は気になりながらも『いつもと違う夏』を完成させるために書き進めた。

 気づけば齋藤飛鳥からの返事にも気にすることなく、書き終えることができた。結局、返事もなく終えてしまったが、これでよかったのだろうか。僕はもう一度頭から読み直し、誤りや、構成が納得のいくものなのか確認した。物語は、終わりに近づいてきた。主人公は引っ越してしまい、近所に住んでいる齋藤飛鳥とは離れて生活をしなければならなかった。飛鳥から、みんなで海に行ったときの集合写真を手渡され、「また会いに行くから」と、一旦別れを告げるという場面だ。
「ほかに好きな子ができたら、許さないからね」飛鳥がふくれっ面になって言う
「はいはい」主人公は、少し適当な感じで答える。
「ねえ、私は真剣に言ってるの!」と真面目な表情で言う飛鳥。このやりとりを頭の中で思い描きながら書いたのだが、本当にこんな風にいってたのではないだろうか。そんな気がした。主人公は飛鳥の「好きだ」という気持ちを受け止め「わかった」と答える。青春っていいなと、読み直して改めて思った。
「待って、この写真渡さないと」と飛鳥が写真を主人公に手渡す。
「あの時の」と主人公は思いだしたかのように言う。この先のセリフだ。

「あっ」僕はある異変に気付いた。

『「でもあの時着たビキニはさすがに恥ずかしかったなー。ほんと、これのどこがいいのやら」と飛鳥は呆れながら言った』
『恥ずかしすぎて、死ぬかと思ったんだから』
『でも、水着似合ってたし』
『いやらしい目で見てたんじゃないでしょうね』
『まさか、そんなことするわけないだろ』 
『ほんとかなー?』
『うーん、まぁちょっとは…』
『ほら!そういう風に見てたんだ!』
『嘘だって』
『嫌いになっちゃうかもー』
『「嫌いにならないで!」と必死に謝る主人公』
『情けないなー、直樹のそういうところも好きだけど』

「また、セリフが変わってる」
こっちのほうがしっくりくる。そう思った。
僕は齋藤飛鳥からの返事がないか、紙を見た。
「あんたの終わらせ方でも良かったけど、私からの意見も取り入れたから。この変態!」
まさか、登場人物から叱られる日が来るとは。そんなつもりはなかったが、齋藤飛鳥はそのように思ったのだろうか。
「変態じゃないし、そんなつもりで書いてませんよー」と僕は紙に書き、返事をした。

「自分の思ったように書いてもらえれば、それでいいよ。それが書きたいものなら、私はどんな役でも演じてみせる。まっ、啓太のことは好きじゃないけど、啓太の話しは好きだから。ちゃんとしたもの書けよバーカ」

僕は、この先も齋藤飛鳥を登場人物にした物語を書き続けるだろう。どんな話しが書きあがるのか、僕にはまだわからない。ただ、良いものは書きたい。自分が書いたもので何か伝えられるものがあるのなら、続ける意味はあると思う。この意見に対し、齋藤飛鳥という架空の人物が、これになんと答えるのか、僕は気になる。もしかしたら、このお話しもまた、齋藤飛鳥という人物が登場したという「書き換えられた小説」に過ぎないのかもしれない。いろんな書物に移動できるからこそ、このような終わり方を迎えるのであろう。では最後に、この質問をして終わろう。


「齋藤飛鳥さん、次の小説にも出てくれますか?あなたにしかできない演技をまた書きたいので、ぜひとも出てくださいね」


20180202-06



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