はじめに

匿名希望の方から、長編小説をいただきました。全8部。本日より8日連続でお届けします。

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作品受領日 10月23日

永遠を過ごす刹那の私をつかまえて
~第1部~

作者 匿名希望





序章-夢見たあとで

まちが…ね。私を置いていったの。

口からそっと零れ落ちた言葉は白んだ吐息となって深い夜空へと吸い込まれた。
やさしく包んでくれていた二重の月明りは湖を漂い浮かんだまま動かない。
路上を照らす外灯。
行き交う人たちが見つめる手元。
行き先を決めるかのように信号機が赤から青へと変わった。
強くまっすぐな光が増えていく。
湖畔から届く風に乗って聞こえた喧噪は季節外れの花火への期待か、それとも一時のまぼろしを夢見てか。
冬空が連れてきた冷たい風に背を押され私は今この坂道を昇っていく。

白い家並みを過ぎ、懐かしい校舎を横目に、蜂蜜色の家を渡ると坂道も終わる。
頭上を埋め尽くしていた満点の星々は、夜空を割って聳え立つビルの屋上で光る赤色灯や窓から漏れる蛍光灯に吸い込まれた。
寂しさを悟ったように一陣の風が頬を掠めて長い髪がなびく。

ふと振り返り瞳に映った世界は、夢を見たみたい。
さっきまで指先で触れられる距離にあったものが、今では伸ばした手のひらが覆い隠くすだけで届かない。
打ち上げられる花火も、
これから流れる音楽も、
歌い踊る美しき人々もこの街も。
みんなみんな何かを飾る創りモノ。
きっときっと誰かが願う創りモノ。

線路を伝い電車の音がやって来る。
長い夢路を終えるかのように電光掲示板には旅立ちの時間が灯された。
10時20分。
残された時間はもうあと僅か。
時計の針は止まることも逆転することもなく、ただひたすら円を描き進んでいく。
風が止み、流れていた思い出が途切れる。
一瞬の静寂に見えたのは、轟音を上げホームに入ってくる電車の窓に映ったコマ送りの私の泣き顔。
これに乗って私は去るのだろう。
雪が舞い、遠く花火が咲いた。

今、このまちとの別れがやってきた。



1章-筋書き通りのスカイブルー

窓枠に置いた肘を支えに、添えられた手のひらから規則正しい揺れが伝わってくる。
耳に嵌めた安物のイヤホンから流れてくるお気に入りの音楽にトンネルを抜ける-風を切るような鈍い音が混ざり込み、嫌でも心地よい世界から戻された。
瞳の裏側を覆っていた暗闇の幕がゆっくりと上がり光が差し込むと、目の前の光景に色が戻り奥行きが生まれた。
どうやら、電車に乗っているようだ。
長時間座っていたせいなのか、硬い背もたれに預けていた背中は痛く、体重で沈み込んでいる座席の座り心地は良いとは言えない。進行方向に沿って並ぶ二人掛けのシートには旅行客であろうか、大きな鞄に軽やかな格好をした恋人や家族連れが目立ち、和やかな雰囲気に包まれた車内ではトンネルだというのに楽しげな話し声が飛び交っている。
物語のはじまりはいつもこうだ。
知らぬ間に。いつの間にか。唐突に動き出す。
きっかけなんて後付けで、始まったことにすら気がつかいこともある。
今はどうなんだろうか。
本の表紙を捲ったとこだろうか。
それとも、話が大きく狂いだすところか。
もしかしたら、クライマックスを終えたところかもしれない。
だとしたら…少しだけ寂しいな。

聴きなれた音楽に身を預けて一度心を落ち着けようと、音量を上げるためイヤホンコードを頼りに鞄に手を入れた途端、騒音が一瞬で消え去り視界の片隅にあった窓枠から眩しい風景が飛び込んできた。
車窓を駆ける山稜を深緑が覆う。山影が途切れてその先の風景が広がると、そこには限りない湖が広がっていた。山肌に沿って曲がっていくレールの先にはレンガ造りの駅舎が、摩天楼のようなビルの合間から見て取れた。山を切り拓いたのだろう。中腹のなだらかな土地に建つ駅舎からは一本の長い坂道が湖へと延びていた。
記憶のない街並み。イヤホンを外して風景を肌で感じようと窓枠のツマミを指先で挟むと、今すぐにでも夏を呼んできそうな熱のある湖風が頬に吹き付け、無造作に切り揃えた長めの前髪がバタついた。

電車が前後に大きく揺れると車窓の風景もだんだんと遅くなり、ゴトンという音とともに駅へと到着した。
名前もわからない駅。ただ乗っていた周りの乗客は皆、一人残らず降りていく。
一人残された僕はどうしていいのかもわからずに足を組んだまま窓枠から覗く景色に目を向けていると、後ろから一人の女性が話しかけてきた。

「ここ、終点ですよ。降りられないんですか?。」

女性にしては低い声が静かになった車内に響く。

「あぁ…そうなんですね。えっと…すいません。降りないとですね。ありがとうございます。」

丸い氷がグラス撫でるかのように冷たくも包み込む、色で例えると水色と群青色が入り混じったような声色をした彼女に誘われてホームへと降り立つと、先に降りていた乗客の楽しみに満ちた軽い足取りでどこかへと向かう後ろ姿がホームから去っていくところだった。
一体全体どうなっているんだ。
知らない街。知らない駅。陽気な空気。僕は小さくため息をつくと、今ある状況を確かめるため、初めて訪れたホームから見える風景をひとつひとつ確認するように歩き出した。

「もしかして、この場所に初めて来られたんじゃないですか?」

彼女の問いに足が止まる。今日はじめて誰かの顔をしっかりと見た気がする。
涼しげな目元に鼻筋の通った高い鼻。髪は艶やかな焦げ茶色のロングヘアー、背丈も一般の女性に比べたら少し高めかもしれない。人から見られることが多いのか、その立ち姿は凛としていて美しく、どことなく纏う儚げ雰囲気の中にも鋭敏さを持ち合わせた意志の強さが見え隠れする、そんな印象の女性だった。

「そうですね…おそらく?」

曖昧な答えより意味の分からない返答に内心で笑う。
ただ今の状況を理解するには情報も時間も全然足らなくて他に答えようがなかった。

「なんで疑問形なの?」

やはり不思議な受け答えだったらしく彼女の言葉からは驚きからなのか見ず知らずの人に使うような言葉の壁が消えていた。

「実はよくわからないんですよね。気づいたら電車に乗っていて、そしてこの駅に、この街に着いていた。そんな感じなんですよ。って聞いてます?」

信じてもらえる話でもないが真面目に答えると、彼女は俯きながら口元に手を当てていた。どうやら、この人は記憶喪失なり困った人を前にしても笑うことができるらしい。

「ごめんなさい。いろいろと可笑しくて。でも知らない場所に、突然来ちゃうなんてなかなかの災難ですね。」

三日月みたく綺麗に細められて瞳と笑い声が合わさった返事に、変に困らせてしまうよりも良かったなと愛想笑いを返す。
まぁ、どうにかなるかもしれない。
少しだけ前向きな気分になった僕を助けるように彼女が言葉を続けた。

「もしよかったら、駅から湖に長い坂道が延びてますので、それに沿ってゆっくりとまちを見て回られるといいと思いますよ。ここはまち全体が観光地になってるので、知ってる人に出会うとか、もしかしたらどこかでそんな不思議な出会いがあるかもしれませんし。」

「そうですね。ちょっと暑そうだけどぶらぶらと歩いてみます。バスとかはあるんですか?」

「この駅から湖畔までは路面電車が通ってますが、車が入れないんでバスやタクシーは。」

「なるほど。いろいろとありがとうございます。もしかして、この街によく来られるんですか?」

「うーん。まぁ、昔は…ですかね。」

何か包んだような物言いと整った笑顔が合図となり彼女は歩き出すと改札へと降りる階段の前で足をとめた。

「私はもう少しここにいるので。楽しい時間を過ごしてくださいね。」

「はい。ご親切にありがとうございます。助かりました。」

整った笑顔に照れてしまう前に軽く会釈を交わすと階段を降りる。
改札の手前。彼女のことが気になって振り返ってみると、彼女は髪をかきあげて、その背を見頃の過ぎた藤棚に預けると横顔から覗くどこか冷めた瞳で行き先のない電車の行方を見据えていた。
これが僕と彼女の1回目の出会い。

乗車賃を払うためにと取り出した財布から古びた切符が1枚ポツリと滑り落ちた。
もう駅名を記したインクは掠れてしまっているが、まだ残る茨と棘を組み合わせた格子模様が改札木箱に残っている切符の柄と同じだということに気づき、僕は木箱に切符を落とし入れた。
駅前広場は駅舎を背に馬蹄型に広がっていた。
上段中央に植わっている樹齢数十年は経っていそうなモミの高木を軸線に左右対称に大小様々な花壇とベンチが置かれ、下段へと続く階段に囲まれた噴水には水華に乗って対照的な二人の女神が踊っている。噴水で区切られた先にある市場は観光客らしき人たちで溢れ、電車から見えていたビル群は見上げなければ屋上が見えないほどの近さになっていた。
それにしても、容赦なく襲ってくる太陽の熱に体が重い。
体に溜まっていく熱と観光地特有の熱気に中てられ、なんとか人通りの多い石畳から逸れると歩道脇に設置された自販機で水を買った。
もう、夏はすぐにでもやってくるだろう。
そんなことを考えてしまう暑さが空一面に張り付いている。
キンキンに冷えた水を口に含んで喉を通す。
騒がしかった喧噪から逃れるように耳にイヤホンを嵌めると彼女の言葉を思い出した。
(街を見て回られるといいですよ。)
とりあえず、湖まで続いているという坂道を通って湖畔まで行ってみようか。湖はここよりは涼しいかもしれないし、もしかしたら彼女が言葉通り不思議な出会いがあるかもしれない。
見上げたビルの壁面に映し出された電子広告には、南国の島国をイメージしたであろう民族衣装を身に纏った美しき少女が砂浜で歌い踊っていた。

~side-h~
記憶とは厄介なものだ。
日々の生活に埋もれている何気ない1コマから決別したはずの思い出を連れてくる。
今日はよく、髪を肩より上で切り揃えたショートカットの女性に目が留まる1日だった。
電気を消して温もりのない布団に潜る。今日あった出来事と明日あるはずの予定を行き来しながら眠りへと落ちていく。
夢か現か。
過去と今の狭間に泳ぎ出し、次にはっきりと意識が戻った時、私は懐かしい電車の座席に座っていた。
磨かれた木目調の床に、座るとギュッとなって沈み込む昔ながらの深緑色のシート。外装はおそらく紫に似た小豆色をしていて、確かお洒落にマルーン色と呼ばれていた気がする。
乗ったことは数える程しかなかったけど、何度も駅舎からこの電車が入っている光景を目にしていた。
あぁ…そっか。
この電車はきっと…あの駅へと、あのまちへと。
思い出とか記憶とか経験とか感情とか…いろいろと重なりあって重たくなってしまって…そして、知りすぎて視えすぎてしまった。
そんなまちへと私を連れていくのだろう。

終着駅に着くと、まるでそれが当たり前かのように乗客たちは早足に電車から去っていく。
見慣れ過ぎた日常的な風景だった。
そんな中、一度身に付いた癖は時間が経っても忘れてくれないのが人間というものらしく、車内にひとり残っている非日常の君を見つけると自然と声をかけていた。
ずっと昔。みんなで訪れてくれる誰かを心待ちにしていたホームを君の隣に立って歩く。
どうやら君もいつの間にかこのまちへと来てしまったと言う。こんな近くに私と同じ人がいるなんて思わなくて、堪えようとした笑い声が零れて君に気づかれてしまった。
何か理由があるはずだ。
ここで会ったことにも、この状況にも。

君と別れた後、私は昔の自分をなぞるようにホームの端にある藤棚に背を預け遠くを見た。
入場券を買い、この場所で、この格好をして、同じ方角を眺めていた時間が甦る。
あの頃の自分は自分に何をねだっていたのだろうか…。

人波が去った合間に訪れる静けさを見つけ、私は改札を抜けた。
財布に捨てられず残っていた行き先の違う切符に残る惨めさを忘れるように木箱へと捨てた。
空に浮かぶ黄色い太陽と彩る白雲に思い出したのは彼女。
あの人なら、深川さんになら会いに行ける気がする。
私はそう思い、あの頃とは違うまちへと入っていく。
今ではもう、周りと同じで私もただの見知らぬ人。駅舎が1歩ずつ遠ざかっていった。


2章-picture of world

信号待ちで溢れた交差点に差し掛かると、僕は人混みを避けるように数歩手前で立ち止まった。黒から白まで様々な彩色が施された布が目の前の空間を埋める。
パンフレットを片手に話し込んでいる二人組は、指差したビルに併設された商業施設へと今日の楽しみを見つけに行くようで、傍目から見てもお洒落だと分かるファッションで着飾った女性のグループは、新しい自分を見つけるために最新の着こなしをしたマネキンが手招きするセレクトショップを巡るのだろう。
勿論、街を散策するために湖畔へと下る路面電車の停留所へと行く人もいて、一瞬だけ立ち止まった交差点には心に閉まってあった楽しみがシャボン玉ように飛び交っていた。
落とした視線の先にあったペットボトルの水に太陽が乱反射して目が眩む。
ふと顔を上げると幸せそうに手を繋でいる親子の後ろ姿に自分にも確かにあったであろう記憶が重なり、楽しそうに顔を近づけてお喋りする恋人に諦めてしまった理想が過る。
いつの気持ちだったのか思い出せないけど、胸に刻んだ傷痕を紛らわすように頭に流れている軽快な音楽に気持ちを乗せた。
信号が青に変わる。
周りにいた人が一斉に動き出しできた波に乗って僕も歩き出す。
前を向こうと見上げた空は悲しみを吹き飛ばす快晴で、せっかくだから路面電車には乗らないでゆっくり湖畔まで歩いてみようという気持ちになっていると、すれ違いざまに背のあまり高くない黒髪の少女とぶつかり持っていた水が大きく揺れた。
咄嗟に出た「すいません。」の言葉は音になったのか。
こんな些細な出来事で人波の勢いが静まることはなく、振り返った先にはもう少女の姿はいなかった。
停留所で電車を待つ人を通り越し、ケヤキ並木の枝葉が影となる道を歩いていくと、青空と地面の隙間から湖が顔を出し、もうそこが坂道のはじまりだとわかる。
靴先を数えるように一歩ずつ、坂道のはじまりに着くと深く息を吸って顔を上げた。
眼下に広がった美しい景色。
イギリスの片田舎を思わせるような蜂蜜色の家並み、坂の中腹には駅舎と同じ大きなレンガ造りの建物が道を挟み居座っていて、その先には雲と見間違うような白を基調とした建物が湖畔まで続いていた。
止めていた息が感嘆のため息となって吐き出された。
感動できているってことは考えていたほど悪い状態じゃないかもな。
悪戯な風を巻き起こし、汽笛を鳴らし追い越していった路面電車を追いかけて、夏が似合うこの街を駆け下りる。
レンガ造りの建物がだんだんと大きくなると、それが学園だということに気づいた。
遠くでも聞こえていた鐘の音は教会のものでなく、お昼休みを告げるチャイムだったらしい。制服を着た生徒たちがお弁当を抱え中庭に集まっている様子がここからでも見える。おそらく中学や高校みたいなところなんだろう。だとしたら、道を隔て反対側にある、カジュアルな服装をした人が多くいる自由な雰囲気に包まれたこの建物は大学なんだろう。

坂道も終わりに近づくと勾配も緩やかになり、街も観光地の様相がより一層強くなる。
湖畔には南国を思わせるヤシの木が植えられ、湖岸沿いに延びる路面電車の通りに沿って様々な店が軒を連ねている。どうせなら砂浜まで行って涼しむかと線路を跨いだが、革底の乾いた音が警鐘を鳴らし、湖岸沿いの店を見て回ることにした。
テラスのあるレストランにアクセサリーショップ。何を売っているのか外観からでは判断できない怪しげな雑貨店。観光案内所にはツアー申込の観光客が列を成している。
途切れることなくすれ違う観光客に、やはりこの場所がとても人気な観光地であることを感じる。ゴミひとつ落ちていない清掃の行き届いた歩道は歩きやすく、駅前ほど人工的に整備されていない景観と日常から遠のいた時間の流れは、自然と体を軽くして心はしがらみから逃れて自由を得た気にさせる。
そんな観光気分に乗せられて立ち寄ったジューススタンドで柑橘系のジュースを片手に太陽を浴び歩いていると、この場所に似つかわしくないような不思議な店が現れた。

店先の花は枯れ、地面の雑草は伸び放題。
外観はなんとか保っているが、外壁には草木が纏わりつき、窓から覗く店内には人の居る気配が全くない。
まるである時を境に時計の針が止まってしまったような場所。
辺りを見回すも通りを歩くたちは皆この店が無いかのように通り過ぎていく。
行ってみるか。
一言そう呟くと僕は恐る恐る店先に近づき、ドアに絡みついていた蔓を払うと木製のドアノブに手を掛けた。
古びた金具がぎぃぃっと鳴り重たい扉が開く。
首を突き出して店内を覗く。L字のカウンターにシンプルな丸椅子。テーブル席もいくつかあり、カウンター越しの厨房には何かの飲食店だった名残があった。
そっと店内に入ると、置いていかれた時間を示すかのような積もった埃を払い除け、入口近くの椅子に座る。日除けの下りていない窓からはこの時間帯だからか、ちょうど日差しが入り込み、焼けた壁の片隅には1枚のポスターが貼ってあった。
それはまるで、誰かが剥がし忘れたような色褪せたポスターだった。
破れないようにそっと剥がし手に取ると1人の女性が映っていた。
キャスターの付いていない、昔ながらの四角いトランクに囲まれた女性。
深緑のコートに飛び立つような白のドレススカート。
腰に巻かれたベルトに付けられた鍵は、トランクに詰めた思い出をしまう鍵のよう。
行き先を心に決めた熱を帯びた瞳からは、帰ることのない物語が紡がれている。
それでも…確かな面影がある。
着ている服も、表情も、瞳の熱も。
普通で、柔らかく、少し諦めを含んだような冷めた印象に変わったけど、駅で話しかけてくれた彼女はここに居た。
ポスターの端。ローマ字で“nanami hasimoto”と書かれている。
これが彼女の名前なのかもしれない。
(不思議な出会いがあるかもしれませんし。)
女性にしては低くこもった声をしていた彼女は、この時どんな声を届かせていたのだろう。焼けていないのが跡となった壁にポスターを貼り直すと扉を開ける。
これが僕と彼女の2回目の出会い。
人波へと戻ると時計は既にてっぺんを回り1日で一番暑い時間がやってくる。
1人でも入りやすい店をと路面電車で駅前へと戻る。
停留所で降りて市場へ向かうとわき道に逃げ水が見えた。
騙し猫に誘われるのも悪くないと、涼しさを探し、追いかけても追いつけないはずのそれを求めて住宅街を抜けていくと、一軒のこじんまりとしたカフェに辿り着いた。