「ねこなべ」様より、妄想小説をいただきました。


 第2回ノギザカッション小説コンテスト準大賞「いつもと違う夏」のねこなべ様が描く、ちょっと不思議で、優しい物語。

 読み終えたとき、心に残る暖かな気持ちは、衛藤美彩さんへの愛となります。


 秋の夜長にじっくりご覧ください。


20171005-01



ある写真家が撮影した写真より

作者 ねこなべ





登場人物
主人公:前田祐介
衛藤美彩
堀未央奈





私の名前は「前田祐介」。日本を代表する写真家として、今年で40歳を迎える。先日、ありがたいことに大賞をいただいた。その時の写真は、私が飼っていた愛猫をメインに、石垣を散歩し、背景には夕日が綺麗に写った一枚だ。私はこの写真以外にも、愛猫との写真はたくさん撮ってきた。その写真は今でもアルバムに保管してある。私の大事な家族だ。

私は自分が経営するオフィスへ出社した。社員は8人と少ない人数ではあるが、誰もがこの先、写真家として有名になっていくに違いない才能のある人たちばかりがいる。オフィスに入ると、勤めてから3年の堀未央奈が出社していた。
「前田さん、おはようございます」
「おはよう」
堀さんは、このオフィスのデスク担当。写真しか撮れない者たちの世話を全てやってくれている。彼女の働きぶりもまた、優秀な人材と言えるだろう。
私は挨拶を返し、デスクへとついた。パソコンの画面を開くとメールが数件溜まっていたので一通り確認をし、各所メールを返信していた。
「前田さん、そういえば新しく入ってくる人の話しは聞いてますか?」
「新人さん?聞いてないな」
「まだ賞とか実績は少ないみたいなんですけど、どうしてもここに入社したいって人で」
「そっか。やる気があるのはいいことだ」
「あと、補足情報なんですけど」
「なんだ?」
「すっごい美人さんなんです」
「へー、そりゃぜひとも拝んでみたいものだ」
このオフィスに入る人は多くはない。だからこそ、新人というだけで楽しみが一つ増えるのだ。私は、その新人がどんな人なのか気になった。

だいたいの者が出社し始めたころだった。一人、恐る恐る入ってきた女性がいた。
「あの…」
その声を聞いた堀さんが迎え入れた。
「ああ、衛藤さん。お待ちしてました」
会社にいた者が一斉に衛藤さんのほうを向いた。たしかに堀さんが言っていたとおりの美人さんだ。見た目は20代後半だろうか。「若いっていいな」自分の年齢の高さを改めて思い知らされながらも、私は衛藤さんのもとへ行った。
「君が今日から入社する衛藤さん」
「はい!宜しくお願いします!私、前田さんの写真を見て、憧れてここに決めたんです!」
とても元気のある声に安心した。そして気さくな感じもあり、仕事に慣れるのも早いだろうと思った。私の会社は腕の立つものは多いが、寡黙で、なかなか打ち解けることが難しい者ばかり。決して悪い人じゃないのは私が一番よく知っているが、この環境で良い人間関係を気づいていければなと思った。

「じゃあ、衛藤さんは僕のアシスタントとして今後はついてほしい」
「えっ!私が前田さんのアシスタントでいいんですか!?」
「衛藤さんは写真の技術はまだまだだろうし、学んでいくなら、恥ずかしいが私のもとで勉強をしてもらいたいかな」
「ありがとうございます!」
衛藤さんは深々と挨拶をする。顔を上げると、とても嬉しそうな表情をしていた。
「じゃあ、衛藤さん。早速なんだが、今から取材に行くので一緒に来てほしいな」
「はい!宜しくお願いします!」
こうして、衛藤さんの指導が始まった。

取材先は、都内から少し離れた神社だ。
「今回は候補にあげていた撮影場所で、この周辺で、風景写真を撮影しようと思う」
私は衛藤さんにそう伝えると、自前のカメラを構えた。レンズ越しに見る景色に広がる家々や学校。また電車が走る景色は、普段目にする日常を少しだけ忘れさせてくれるような。そして、自分の見ている景色は、これからも変わっていくものの瞬間を捉えるかのように感じた。私は試しに一枚、写真を撮った。
「衛藤さん、この写真…ってあれ?」
先ほどまで近くにいた衛藤さんの姿が見えない。どこへ行ってしまったのだろうか。私は神社の境内へと歩き、衛藤さんを探すことにした。少し歩くと、神社の本堂とお賽銭箱のある場所まで来た。するとそこには衛藤さんがいた。いや、正確に言うと衛藤さんと野良猫の群れがたくさんおり、仲良く遊ぶかのように群がっていたのだ。私はその光景を見て、なぜかカメラのシャッターをきってしまった。体が不思議とそうさせたのだ。
「衛藤さん、勝手に行かないでくださいよ」
「すみません。猫がいたものでつい」
「猫、お好きなんですか?」
「はい。自分の家族のように好きなんです。前田さんも猫がお好きでしたよね」
「大好きです。昔、飼っていた猫も…」
私はあることに気付いた。昔、猫を飼っていたが、そのあとどうしたのかが思い出せない。
「前田さん、さっき猫に囲まれてる私のこと撮りましたよね」
「ああ」
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「いいけど」
私のカメラの液晶画面を覗きこむ衛藤さんは人というより、猫に近い感じがした。気品があり、いい匂いがする。私はその姿にうっとりしてしまった。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。もう少し、このあたりを散策してみようか」
「はい。まだまだ勉強することたくさんですね」
楽しそうに答える衛藤さんを見て、少しずつ、女性としても好きなっていくような気がした。なにより、不思議と落ち着くのはなぜなのかが、自分でもわからなかった。

数時間後。
この神社だけでなく、周辺の住宅や公園などを転々と歩きながら、いろんな撮影ポイントを巡ってはみたが、良い写真は撮れなかった。
「よし、今日は戻るか」
「わかりました」

衛藤さんの仕事初日は、実りのあるものは得られたのだろうか。何も教えられてないので不安だった。オフィスに戻ると、各々自分の撮影に向かったのか、オフィスにいたのは、堀さんだけだった。
「あっ、前田さんおかえりなさい。どうでしたか?」
「いいのは撮れなかったよ。また新しい場所見つけないとな」
「じゃあ、また一から仕切り直しですねー」
「まぁ、いいものっていうものは狙って撮るのもいいけど、自然なものには勝てない時もるからさ。ふとした瞬間にいいのが撮れるかもしれないし」
「そんな偶然に出会えればの話ですけどね」と堀さんは笑って言った。
「前田さん、コーヒー飲みますか?」
「ああ、一杯ほしいな」
「じゃあ、衛藤さんのぶんも作っちゃいますね」
「いやいいですよ!自分で作りますので」
「今日は入社祝いってことで。先輩からコーヒーのプレゼントよ!」
「まぁ、一杯10円のコーヒーだけどな」
「前田さん、そういうことは言わないでください」堀さんが、ひとさし指を口元に持ってきて、静かにと言いたげにジェスチャーをした。
「堀さん、すみません」衛藤さんが申し訳なさそうに言った。
「いいのいいの。こういうのは私がやっちゃうんだから」
少しして、堀さんを含めた3人分のコーヒーができた。
「はい、前田さんと衛藤さんのコーヒー」
私はコーヒーを受け取って一口飲んだが、衛藤さんはずっと息を吹きかけコーヒーを冷ましていた。
「衛藤さんって、猫舌?」
「そうなんです。いつも熱いものは冷ましてもらってて」
「冷ましてもらってって、衛藤さん彼氏さんとかいるんですか?」と堀さんが余計な質問をした。
「彼氏はいないですよ。でも、それよりもっと大事な人なんです」
「彼氏じゃないけど、大事な人。ご家族ですか?」
「まぁそんなところです」と衛藤さんは笑顔で返したが、私の目には少し寂しそうに見えた。コーヒーを冷まし終えたのか、ようやくコーヒーを口にした衛藤さんは、笑顔だった。その顔を見て、私はなぜかまた安心してしまった。

「前田さん、今日は衛藤さんも入社したことだし、歓迎会しませんか!」
「うん、そうだな。衛藤さん、このあとの予定とか大丈夫かな?」
「いいんですか、私なんかが…」
「いいに決まってるじゃないですか!あっ、前田さんがちゃんと奢ってくれるんで、好きなもの食べちゃってください」
「おい、それ堀さんじゃなくて、俺が言うことだぞ。すぐ調子に乗るな!」
「やったー。前田さんのごちそうだー!」一人テンションの上がる堀さんをわき目に、衛藤さんにどのお店がいいか、聞くことにした。
「衛藤さん、好きなお店とかありますか?」
「そうですね…」
「前田さん、私調べたんですけど、近くに日本酒の美味しい居酒屋さんができたみたいです!ここにしませんか!」
「いや、今日は衛藤さんの歓迎会で…」
「美味しい日本酒ですか!そこに行きたいです!日本酒好きなんです!」
「じゃあ決定ですね!」
2人の若い女子が意気投合した末、日本酒の美味しい店に決まったのだった。

店内は綺麗な内装で、カウンターには日本全国から集められた地酒が並んでいた。
個室へと案内され、早速注文をすることに。
「衛藤さんは何飲みますか?」
「うーん…あっ、あった。私はこれで」
「これなんて読むんですか?」
「美彩淡露(びさいたんろ)です。私の名前が入ってるんですよ」
「ほんとだ!じゃあ、私もこれにしようかな。前田さんはどうしますか?」
「じゃあ、この一吉で」
「前田さん、いつも一吉飲んでますね」と衛藤さんが言った。
「えっ、なんで知ってるの?」
「いや、なんでもないです。気にしないでください」
私は疑問に思った。
「じゃあ、あとは食べ物ですね。皆さん、何食べますか?」
「僕はなんでも」
「衛藤さんは?」
「じゃあ、カツオのたたきを。カツオ大好きなんです」
「私は、シーザーサラダ、鶏なんこつ、枝豆、ホッケとかも美味しそうだなー」
堀さん、絶対全部頼む気だ。私はそう思った。テーブルに備え付けられた呼び出しのベルを押し、店員を呼んだ。各自、飲みたい日本酒と、案の定堀さんは先ほど言った品物に3品加え注文をした。堀さんは食べることにしか楽しみがないのかと思うくらいだ。

少しして、日本酒がテーブルに運ばれた。おちょこに日本酒を注ぎ、乾杯の準備をした。
「それじゃあ、新しく入った衛藤さんをお祝いして、かんぱーい!」
なんとなく予想ができるだろうか。この堀さんがお酒に酔うとどうなってしまうのか。
「私なんて、まだまだ若いのに仕事ばかりで、たまにはプライベートも充実させたいなって思うんですよ」とにかく喋る。
「前田さんも、いい年して結婚しないなんてもったいないですよ」あと、余計なことも言ってくる。
「俺は好きで結婚してないの」
「また、そういうこと言っちゃって。どうですか、衛藤さんも入ったことだし、今度はお二人でご飯とか行けばいいのに」
「衛藤さんは、僕のアシスタントでこれから将来有望な人になるんだから、そういうことはしません」
「えー、冷たい人だな、前田さんって」
余計なお世話だ。なんで私はこんな一周り年の離れた女性に言われなきゃならんのだ。堀さんは私の母親か!と思った。
「ねえ、衛藤さんからも何か言ってあげてくださいよ」
「前田さんのことは、好きですよ」
「え?」私は目を丸くした。
「それは男性としてですか?」と堀さんはすかさず質問した。
「男性としてもそうですし、職場の人としてもです」
「衛藤さん、なかなか大胆に行くわね。こういう人と付き合ったらいいんですよ前田さんも」
「ありがとう、その気持ちだけでも受け取っておくよ」
私は、言葉を濁しつつ返事をした。
「堀さん、今日はとことん飲みましょう!なんだか気持ちが抑えられなくなりました!」
「衛藤さん意外とそういう一面もあるんですね。とことん付き合いますよ!」

私は仲裁に止めるべきだったのだろう。店を出ようというころには、衛藤さんと堀さんは完全に酔っていた。あの時、二人を止めていればこんなことには。これ以上飲ますわけにもいかなかったので、店員を呼びお会計を早々に済ませると、私たちはお店を出ることにした。
二人とも酔っているのかぐったりとした様子だ。私はとりあえず堀さんにタクシー代を渡し、自宅へ帰らせることにした。
「じゃあ、堀さんはここまで。ちゃんと帰ってくださいね」
「大丈夫ですって。ちゃんと帰りますよ」酔っていて呂律が少し回っていなかったが、まぁ大丈夫だろうと思い、堀さんを送った。
問題は衛藤さんだ。ここは責任を持って、衛藤さんの自宅まで送るしかないと思った私は、一緒にタクシーに乗ることにした。
「衛藤さん、自宅の住所教えてもらってもいいですか?」
「その…、前田さんのお家に行きたいです」
「いやそれは…」
「ダメですか?」
酔いが回っており、目はとろんとして眠そうだった。しかし、その表情を見ていると不思議と惹きこまれる感覚に陥った。このまま好きになってしまうような気がした。私はその言葉の誘惑に負け、私の家へと向かったのだった。

私は衛藤さんの腕を肩にかけながら帰宅をした。ソファーに衛藤さんを寝かせ、キッチンへ行き、一杯の水を注ぐと衛藤さんのもとに置いた。この状況はなんなんだろうか。私の家に女性が来たのはいつぶりだろうか。

そういえば、私が帰宅したときは、いつも愛猫が迎えに来てくれてた。だけど、今はいない。なぜいないのか思い出せない。愛猫の名前は?いつから共に生活をしていた?すべてが思い出せなかった。
「あっ、そういえば…」
寝るときはいつも一緒の布団で寝かしつけてたっけ。落ち着くのか、いつもこうして寝ていたな。

私は本棚から一つのアルバムを手に取りソファーに腰かけ、アルバムの中に保管された自慢の愛猫の思い入れのある写真を見ることにした。この時は、初めて出かけたときの写真だ。助手席に座らせてドライブに行ったのが懐かしい。別の写真には、初めてお風呂に入った時の写真。水が嫌いで、お風呂に入らせるのも一苦労だった。いろいろ思い出していると、いつの間にか隣に衛藤さんが座っていた。
「これ、前田さんが飼っていた猫ですか?」
「飼っていたなんてもんじゃない、本当に家族だと思って過ごしていたよ」
「前田さんは優しいんですね」
そう言うと衛藤さんがもたれかかってきた。その言葉の柔らかさと、美人さゆえに、本当に好きになってしまいそうだ。この惑わせる魅力はなんだ。私は衛藤さんを好きになってもいいのか。私は葛藤したが答えが出てこなかった。すると衛藤さんが私から離れ、自分の鞄からあるものを取り出した。
「前田さん、見てください。これ私のお守りなんです」
それは猫が首にかける鈴のようだった。
「私の大切な人がくれた思い出の鈴なんです」
「それって、さっき言ってた彼氏よりも大切な人?」
「そうですね。でもその人に会うことはもうできなくて」
私はまずいことを聞いてしまったと思った。なんて返せばいいのだろう。

「とりあえず、今日はゆっくり寝てもらって、また明日から仕事頑張りましょうか」
私は、気まずさをごまかすために、ぎこちないがその言葉を残した。
「じゃあ、私はソファーで寝るので、衛藤さんはベッドを使ってください」
そう言ったが、衛藤さんが何か言いたげな顔をしている。
「あの…」
「なんでしょう」
「一緒にベッドに寝てもらってもいいですか?」
「何言ってるんですか!?」
「ああ、すみません、誤解です!私の隣で添い寝してほしいというか…」
「それはちょっと…」
私の理性がそれを抑えた。さすがにそれはできない。
「どうしてもダメですか?」
「だって、私と衛藤さんは今日初めて会って、そういうのはもっと別の人と…」
「ダメですか?」
なぜだろう、私の愛猫に似ていると思ってしまった。いつも頑固なところがそっくりだ。一番最初に家に来た日もそうで、私のベッドから離れようとしなかった。その答えを出すのに考えた。考えて考え抜いた。
「今日だけですよ。絶対に言わないでくださいね」
「はい」
衛藤さんの顔は、今日一番の嬉しそうな顔をしていた。

寝室の電気を消し、私と衛藤さんは一緒のベッドで入った。
「もっとくっついてもいいですか?」
「はい」
「前田さん、もう一つお願いしてもいいですか?」
「なんですか」
「頭撫でてもらってもいいですか?」
「いいですよ。それにしても衛藤さん、なんか私の愛猫に似てますね」
つい言葉に出てしまった。
「じゃあ、私のこと愛猫だと思って撫でてください。あと美彩って呼んでください」
「美彩か…」
私は愛猫のように頭を撫でると、さらにくっついてきた。その温もりや息づかいを感じながら、私はそのまま寝てしまった。


翌朝。私は、いつにもなく気持ちのいい起き方をした。そしてある違和感を感じた。
「美彩がいない」
私はそのことに気づきリビングへ向かったが、そこに誰もいなかった。テーブルに目を向けると、私の愛猫のアルバムが広げられており、美彩が大切にしていた鈴が置いてあった。「一体どういうことだ?」
私はそこにあるアルバムを見返した。一枚一枚、見返した。
すると少しずつだが「何か」を思い出してきた。
私の家に来た猫は、いつも気さくで、私にずっとくっついてきた。あるページには、首に鈴をかけている写真があった。
「これは…」テーブルに置いてある鈴と同じものだ。
思い出した。この鈴は私が気に入って買ったものだ。最初は嫌がっていたけど、少しずつ慣れて。
「名前、名前はなんだ?」
私はページを進めた。もしかしたら、そこに答えがあるかもしれない。そして、ついに見つけた。
「ミサ」
私は愕然とした。そして疑問だったことも今、すべて解決した。熱いものが苦手なこと。カツオが好きなこと。私が飲む日本酒を知っていたこと。私の家族だったということ。そうだ、ミサは半年前、突然いなくなったんだ。私はそのことを受け入れたくなくて、考えないようにしたんだ。どうしてこんな大事なことを忘れていたんだ。


「ミサ。私に会いに来たのか」


私は、急いで家を出た。もしかしたらオフィスで待ってくれているかもしれない。


私がオフィスの扉を開けた時、そこにいたのは堀さんだけだった。
「堀さん、昨日衛藤さんと歓迎会をしたの覚えてるか?」
「衛藤さん?昨日は前田さんと私の二人で飲みに行きましたけど」
「そんなはずは」
「前田さん、昨日お酒飲みすぎておかしくなっちゃったんじゃないですか?」と堀さんは笑顔で言った。もうこの世にミサがいないということなのか。だから記憶にないのかと私は悟った。

その時だ。
「前田さん」
私は声のするほうを振り返ると、そこにはミサが立っていた。
「もう、全部思い出してくれた?」
「ああ、思いだしたよ。私に会いに来てくれたんだな」
「会いたくなっちゃったなーって」
「どうしていなくなったんだ」
「寿命かな」
「そうか。それで勝手にいなくなったのか」
「ごめんなさい。でもね、あなたと生活して楽しかった。本当の家族みたいにお世話をしてくれて」
「何言ってるんだ。ミサは私の家族だ」
「だから私のことは忘れて、新しい人と幸せになってほしいなって思うの」
「そんなことはできない」
「もう、しっかりしなさい!私は平気だから。ずっと見守っているから」
「わかったよ。それでいいんだな?」
「うん」
「そうだな。じゃあ、たまにはこっちに遊びにこいよな」
「どうかなー。私も猫だから、自由に行きたいし」
「そこは会いに来るって言いなよ」
「嘘。また会いに来るから。じゃあ、もうお別れしないと」
「じゃあな。会いに来てくれてありがとう」
「じゃあね。私のことお世話してくれてありがとう」


ふっと、その場にあった雰囲気が消えたのを感じた。
「前田さん、どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
私は、デスクにつき、自分の鞄からカメラを取り出した。そしてカメラの撮影履歴から、撮影した『ある写真』を探した。
「あったあった。さすが、私の愛猫だ」
その写真は、神社の境内で撮ったものだった。猫に囲まれ戯れているミサが、衛藤美彩という人物のまま撮れた一枚だ。その笑顔を見せた写真は、私が今まで撮影したもののなかで自然に撮れた、最高な一枚だった。

20171005-02








<ノギザカッションでは、皆さまからのレポート、エッセイ、小説、イラスト等を募集しております。詳しくはこちらをご覧ください。>

 
乃木坂46 ブログランキングへ