NHK 「貧困女子高生」に批判・中傷 人権侵害の懸念も@毎日新聞8/24より
 子どもの貧困問題を扱ったNHKのニュース番組で体験を語った女子高校生について、インターネット上で「貧困ではない」「捏造(ねつぞう)だ」と批判する書き込みが相次ぎ、自民党の国会議員がNHKに釈明を求める騒ぎとなっている。ネット上には住所などとともに女子高校生の容姿を中傷する書き込みまでされ、人権侵害が懸念されている。
 少々古い話ですがNHKで貧困女子高生を取り上げた番組に対し取り上げられた女子高生に対しネットで様々な批判が起きたという事がありました。

「1000円ランチ」女子高生をたたく日本人の貧困観 @下流化ニッポンの処方箋 藤田孝典 (毎日新聞「経済プレミア」2016/8/31)より
 18日放送のニュースで女子生徒は、母子家庭の経済事情で専門学校進学をあきらめたことを明かしました。

 アパートの部屋に冷房がないこと、パソコンの授業のために母にキーボードだけを買ってもらって練習したことなど、番組は母と2人暮らしの女子生徒の暮らしぶりも伝えました。その映像にイラスト用の高価なペンが映ったことから、女子生徒のものとされるツイッターが特定され、1000円の昼食を食べていたこと、好きな映画を見に行っていたことが攻撃されました。

 女子生徒をたたく人たちは、「彼女は本当の貧困ではない。飢餓寸前になるまで助けるべきではない」と主張しているように見えます。ある国会議員もその論調に乗ったツイートをしました。ここに、貧困問題を考える上で重要なポイントがあります。  

 確かにか弱い女子高生の私生活をさらしあげるようなやり方はあまりほめられたものではないものの、個人的には個人情報をさらしあげるような過剰なバッシングは良くないにしてもこの報道への反発も分からなくない・・・と言うよりも貧困の本質と言うのは単純にお金の問題ではないのに安易に「お金がなくて学校にも行けないしクーラーもない」と言う分かりやすい報道への反発と言うのが大きかったのではと感じます。
 と言った事で今回はこの件に関して少し思った事を書いていきたいと思います。

・女子高生の今とめざすもの
 さて詳細を書く前に大まかにこの悲劇の主人公となった女子高生の状況について少しまとめたいと思います。
 まず放映された番組から読み取れることとしては
・地元横浜市のプロジェクトに低所得家庭の高校生の当事者として参加している
・プロジェクト主催のイベントでは堂々演説するなど活躍している
・実家の所得が低く、クーラーやパソコンなど一般家庭には必需品となっているものがない
・アニメのキャラクターデザインの仕事に就きたいと、専門学校への進学を希望していたものの実家の経済状態から断念せざるを得ない状況にある

 こうしてみると彼女には2つの課題がある事がわかります。多分大都市でありヒートアイランドの影響で真夏は室内でも相当な暑さとなるであろう横浜市内に居住しているのにクーラーもないと言った経済的に厳しい状態からの脱却、そして彼女の夢であるキャラクターデザインの職に就くために専門学校に行くなどの環境づくりまた彼女自身横浜市のプロジェクトに参加しているというのは少なくともこういった場できちんとふるまえる素養を備えていると言えます。個人的にあまり彼女を貧乏と言う言葉は使っても貧困と言う言葉で形容したくない気持ちになります。

 そして彼女が目指すキャラクターデザインと言う職業に関してアニメーション制作者実態調査報告書2015 と言う資料が詳細に調査を行っているのでそこから少し見ていきましょう。
平均年間収入  510.4万円(全産業平均415万円Choose or Loose参議院選挙2016~男女平等は何故女性を幸せにしなかったのか~ より)
学歴 高卒21.4%、専門学校卒57.1%
男女比 男性57.1% 女性35.7%
健康保険 市町村の国民健康保険 78.6%
平均仕事経験年数 15.4年(アニメ業界平均 11.5年)
アニメーション制作以外の仕事 漫画家33.3%、イラストレーター・同人誌16.7%

 こうしてみると平均年収は500万円を超えて比較的高く、また高卒・専門学校卒が80%弱、そして女性比率36%と言うのは「女性だから不利になる面は少ない」と言ってもよさそうな状況に見えます。
 一方で80%近い人が個人事業主向けの国民健康保険を使っていて、約半数が漫画家やイラストレーター・同人作家との兼業をしているのを見ると単純に専門学校を卒業して何らかの会社に入って努力すればなれる職業でないのも同時に見て取れます

女子高生の行く道

平野耕太 @hiranokohta 9月9日 より
漫画とかイラストの専門学校は何すればいいかわかんないが何かしてえ何処いけばいいかわからんが何処かいきてえっていう人間にはきっかけになるのでアリだと思うんだ
平野耕太 @hiranokohta 9月9日 より
初めから明確に漫画家やイラストレイターになるのだって鉄のような強固な意志がある18歳19歳なんてそうそういるとは思えないし俺もアニメーション科→ゲーム会社→漫画家だし齟齬と誤解を重ねながら最適の職を探せばいいんじゃないかしら

ドリフターズ1-5巻セット [ 平野耕太 ]

 そして女子高生がキャラクターデザインの職に就く為に通おうとしている専門学校に関して実際このジャンルで物を作っている人たちがどう見ているか、上は「ドリフターズ」「ヘルシング」などで知られる漫画家の平野耕太氏のツィートです。特に平野氏は実際に専門学校に通ったうえで職業漫画家となっているのですが、少なくとも専門学校に通ったから漫画家になれたというよりもアニメなどの業界で何かやりたいが迷っている人が試行錯誤の一環として通い何かのきっかけを得る場所と言うスタンスなのが印象的です。

森田季節@伊達エルフ政宗2発売中 @moritakisetsu 8月9日
以前になろうのトップランクの作家さんが、毎日上位作品を読んで、毎日更新してということを繰り返していけば、一年でちゃんと書籍化できると言ってました。なろう書籍化以外でもデビューする際の必勝法はよく読んでよく書くしかない
小説家になろう
pixiv
ニコニコ静画
伊達エルフ政宗 2 [ 森田 季節 ]

 だったら何が大切なのか、漫画やアニメではなく少し距離のある分野なのですが「伊達エルフ政宗」などで知られ、ライトノベルなどの投稿サイトである小説家になろうでも積極的に活動するライトノベル作家森田季節氏が上のように書いています。言ってみればお客さんの反応のある場所に向けてきちんと定期的に作品を発表し、お客さんの反応をきちんとフィードバックする。また同業で成功している人たちの作品をきちんと読んで学ぶべきことを学ぶ。言い換えれば市場にきちんと参加してきちんともまれる事、それがライトノベルのジャンルで作家になるための王道と言う事なのでしょう。これはジャンルは違うとはいえターゲットは近いと思われる漫画、アニメの業界でもいえる事であり、だからキャラクターデザイン職にある人の1/3は同人誌・イラストレーターと兼業なのでしょう。そしてライトノベルの世界の小説家になろうにあたるのはpixivニコニコ静画と言った投稿サイトであり、アニメ・漫画の業界にはコミケと言う同人誌の一大祭典がある事を考えるとその影響力は小説家になろう と比較にはならないと言えます。
 そしてライトノベル作家森田季節氏の言葉から導き出せる王道を行くには彼女は専門学校以前にネットワークにつながったPCが必須アイテムとなります。

・貧困と資本
 そしてこの前提でネットで挙がっている裏の取れていないバッシング情報を見ていきましょう。

・イラストを描くのに使っていたマーカー(?)セットは2万円近いもの
・レストランで1000円以上の飲食を行っていた
・1回1000~1800円くらいする映画を6回も見に行っている
・チケット代7800円のライブを見に行っている

 といった事が挙げられています。これまで上げてきたことから考えると、単純に彼女が贅沢したと言うよりも「お金の使い方の優先順位が違うんじゃない?」と言う風に見えてこないでしょうか?

金持ちと貧乏人のお金の使い方金持ちの法則より
金持ちと貧乏人のお金の使い方には明らかに差があります。貧乏人は、常に物を買うためにお金を使います。貯蓄家は、将来のためにお金を貯めようと考えます。金持ちは、貯めたお金の一部をリスクに晒して、安定的な収入を得ようと考えます

 上の引用は良くあるお金持ちと貧乏に関する論考です。お金持ちへの道を歩む人は結局の所将来稼ぎを生んでくれるもの=資本にお金を費やし、貧乏人への道を歩む人はそうでないもの=消費にお金を費やすと言う点から考えると女子高生の生活の一一を暴き出す行為は褒められたことではないものの将来稼ぎを生み出すのに役立ってくれそうなものであるPCの確保よりも飲食や映画鑑賞と言う消費を優先させるという意味では貧乏人への道であり、それに対して意見を言うと言うのは納得できる部分があります。

・今回の炎上の本当の理由は
お金持ちは、子どもの養育費も投資の1つ@IT Media Enterprise より

 華僑が子どもの教育に力を注ぐ背景には、異文化の中でたびたび差別的な扱いを受けてきたという歴史があります。高学歴であれば外国人でも一目置かれることが経験上わかっているので、子どもを守るためにお金を惜しまずせっせと勉強させるのです。小学生の場合、一般的日本平均の約2倍の教育費を投じるのがスタンダードです。

 そして、教育費をかける理由を子どもにきちんと説明します。

 「お前を守るためにお金を出してやるんだ

 さらに、教育にかかった金額もハッキリと伝えます。

 「入学金、授業料、塾費用、習い事、全部でこれだけかかっている

 加えて、そのお金をあとで返せと言います。

 「これはお前のために投資したお金だから、社会に出て自分で稼ぐようになったら私たちに返しなさい

 実はこの問題で問われることは無かったのですが、この女子高生の家が仮にリッチな家だったとして、彼女がすんなりとめざす専門学校の学費を親から出してもらえたでしょうか?仮に私が親だったら最低一度は却下すると思います。理由は大学や専門学校の授業料、そして18~20代前半と言う若い時期をどう過ごすかと言うのは夢を追うためと言う理由で簡単に浪費できるほど安いものではないという事です。だからこそ子供にその時期をいかにすごしそして社会でどのように生きていくかをじっくり考えさせるというのは親の愛情であり、何よりの教育ではないかと思います。
 そういった意味でNHKの今回の報道に反発した人たちの気持ちと言うのは良くわかります。「親が貧乏なせいで志望する専門学校に通えない可哀そうな女子高生」をクローズアップし、ある種聖域におくことで彼女が貧乏から脱出するために必要な考え方を学んだり、よりじっくり自分の行く末を考える機会を奪っているのだとしたらやはり彼女にとってマイナスは大きな気がしますが如何でしょうか?