大前駅に停車中の211系、こうして見ると秘境駅だが川向こうには嬬恋村役場を中心とした人口集積が見られる
さて前回吾妻線について書いてきましたが改善案などを書いていなかったのもあるためもう少し書きたいと思います。
前回のまとめ
先人の築き上げた資産を安易に手放すのか~吾妻線と万座温泉に思う~より
現状の課題をまとめて見る
さてこれまで見てきた経緯と現状を纏めますと
・現状の長野原草津口~大前の利用者の8割が通学客
・2012年の特急減便、2016年の特急区間短縮で長野原草津口~大前の乗客減少傾向が明確となって来た。
・それに伴い沿線の嬬恋村の入れ込み観光客数は他が増加か、増減を繰り返すのに対し明確に停滞・減少傾向に入った。
・通勤・通学を見ると概ね線内の通学には対応していて、高崎・前橋市内への通勤もある程度対応されている、嬬恋村内から高崎・前橋方面への通学への対応が課題
・日中のダイヤは東京から草津温泉方面への特急は沿線の視点で見ると運行時間が偏ったり、臨時特急の影響で日中の本数が少ないなど、沿線~高崎・前橋方面との双方の行き来が不便なダイヤと言う印象を受ける
・沿線のバスを見ると吾妻線に沿った区間は一部あるものの、基本的には軽井沢~草津温泉・万座温泉の広域観光ルートの一端を担う路線が多い
・万座・鹿沢口発着のバス路線のダイヤを見ると本数が少なく接続も良くない
・自治体はコミバスと言うよりもスクールバスや福祉バス等公共交通と言うよりも特定の目的を最低限フォローする交通機関の手当てが精一杯と言った感じ
さて現状に関して上の様にまとめました。しかしこれではわかりづらいので利用者及び地域等を分類して整理したいと思います。まず利用者に関しては以下になります。
・通学客:現状の利用の8割を占める、ダイヤ上線内の通学はカバーされているものの、大前~渋川、嬬恋~前橋・高崎の通学への対応が課題
・通勤客:ダイヤ上大前~前橋・高崎市内への通勤以外はカバーされている
沿線から高崎・前橋方面:日中7時間近い空白時間の生まれる大前、万座鹿沢口以東でも臨時特急のダイヤの関係もあり、間隔があき利用しづらい
・沿線から東京方面:高崎・前橋方面と同様
・高崎・前橋から沿線:特急が東京発着の関係で時間帯が偏り、長野原草津口以降の本数も少なく利用しづらい
・東京から沿線:2012年以降特急減便や区間短縮で利用が激減していると思われる、現状定期特急に接続する普通があるが、臨時特急に接続するものはない為、使える列車が減少するのも問題
また地域等に関しては以下の様に言えます。
・バス路線は軽井沢~万座温泉・草津温泉の広域観光ルートを担っているが、その中核である万座・鹿沢口発着の路線は本数が少なく接続も良くない
・長野原草津口迄は東京島発着の高速バスも多いが以降の地域向けはない
・並行するバス、コミバスは影響は少ない
・特急の本数減、区間短縮以降嬬恋村の観光客は他の地域と比べて減少・停滞している
こうして見ると複雑に感じますが、所謂赤字路線の場合、ローカル線と言う言われ方と対照的に、沿線地域、県内レベルの広域、大都市との行き来など複合的な需要を集めて成り立っていると言う前提があると私は考えています。その上で、吾妻線長野原草津口~大前について引き続き見てきましょう。
中立とはたんぱくではないか
“赤字は年間4億円超”JR吾妻線 長野原草津口~大前の今後は 沿線自治体などが初の協議@NHK2024/5/23より
群馬県 山本知事
「地域にとって最適な交通サービスを選択するために関係者で議論を行うものだ。大事なことは、地域住民の移動に便利で快適なものにすることだと認識している。その認識のもとで県としては中立的な立場で調整に努めていきたい」
しかし不思議な事に山本知事の会見には観光客も、前橋や高崎の人達の名前は出てきません。あくまで地元住民の為と言う路線と言う認識はたんぱくすぎる感じがします。
特急の減便・区間短縮が導いた観光客の減少・停滞
吾妻郡関係町村のコロナ禍からの観光客回復状況(令和4年(2022年)観光入込客統計調査報告書@群馬県より作成)
実際沿線の観光入れ込み客数を見ると嬬恋村の客数は人口に比して大きく嬬恋村の主要産業であり、前記事で書いた様に2010年代減少・停滞していてかつ、周辺の町村に比べてコロナ禍からの回復状況も良くないです。
群馬県5大温泉の入れ込み客数推移(群馬県魅力創造課より)
県レベルで見ても嬬恋村の代表的な温泉である万座温泉は県内第4位の入れ込み客の多い温泉であるものの2010年代以降入れ込み客数で振るわず、水上温泉と共に群馬県の温泉観光が全体的に伸び悩んでいる原因となっているのが見て取れます。ちなみに水上温泉も万座温泉同様2010年代に特急の乗り入れが無くなっていて、東京に乗り入れる鉄道の状況が左右している面が決して小さくないのが見て取れます。
水上 (列車)@Wikipedia
令和4年(2022年)観光入込客統計調査報告書@群馬県より
そして温泉で多いと言える宿泊客の観光消費額単価は日帰り客の5~10倍多く、言い方は良くないですがJRの言う通りに特急の廃止を受け入れた様に見え、結果的に水上・万座両温泉の入れ込み客減少を加速させたのは優れた観光資源に恵まれているのにもったいないと感じますし、またこの吾妻線の問題で観光客の存在を無視するのは疑問を感じます。
Maas、庄内空港、地域内だけでなく外からお客を呼び込む利用者誘致策を県も含めて考えられないか
JR吾妻線(大前駅 ~ 渋川駅間)を利用 した鉄道運賃(令和6年6月1日以降の利用分から)の補助が始まりました!!@嬬恋村より
「嬬恋村JR吾妻線利用乗車券購入補助金」のご案内
みんなの利用で未来に残そうJR吾妻線!
JR吾妻線(大前駅~渋川駅間)を利用することで利用者数が増加し、鉄道路線維持を図ることを目的として、村民が利用した際のJR吾妻線区間の鉄道運賃を補助します。
助成対象者
嬬恋村に住所を有する方
補助対象経費
JR吾妻線において、大前駅、万座・鹿沢口駅、袋倉駅を出発駅・到着駅として、片道または往復利用した時の普通乗車券の鉄道運賃の全額を補助します。
※JRの運賃割引が適用される場合は、割引後の鉄道運賃を全額補助します。
※通学及び通勤は対象となりません。
対象利用期間
令和6年6月1日(土)からの鉄道利用運賃
さて利用促進策として6月から嬬恋村によって村民が吾妻線を利用した際の運賃補助が始まりました。実際前回の記事で書いた様に嬬恋村~前橋・高崎の利用は無視できないですし、悪い施策ではないと思います。
庄内空港利用拡大助成事業【一般の方向け】@山形県より
こばえちゃ割キャッシュバックキャンペーン
庄内空港発着便を利用した方に助成を行います。
移住、就活、婚活、農業就労、関係人口創出セミナー・イベントで庄内へ来る方を応援します。庄内訪問の際に、庄内空港発着の対象便を利用した方に助成を行います。
ただ逆に嬬恋村に来る観光客向けのキャンペーンもあっても良いのではないでしょうか?上は山形県の庄内空港の利用促進キャンペーンからの引用です。この様な形で例えば特急草津四万を利用して万座温泉をはじめとする嬬恋村の観光地に来る観光客向けのキャッシュバックのキャンペーン等は考えられると思います。これは単に吾妻線の利用促進と言うだけでなく、コロナ前から減少・停滞していた嬬恋村の観光の活性化と言う面もあります。
GunMaaS(群馬版MaaS)より
また県が運営しているMaasであるGunMaasで嬬恋村向けのものを作る事で前橋・高崎など群馬県内及びその周辺部からの観光客の掘り起こしを行って見るというのも考えられます。現状草津・伊香保・四万の各温泉の宿泊客向けにアクセスバスの2日乗車券をスマホの電子チケットでお得に購入できるのですが、万座温泉・鬼押し出し・軽井沢方面の西武観光バス、草津温泉・北軽井沢・軽井沢方面の草軽交通を巻き込んで作って見るというのは手だと思います。
政令市広島・熊本・浜松に負けない活発な鉄道利用を誇る路線上越線
高崎~渋川の輸送密度と対応する他社区間の本数比較(2022年度、JR東日本、JR西日本、JR九州、遠州鉄道@wikipedia参照)
続いてダイヤについて見ていきましょう。吾妻線のダイヤを書く前に、そのアプローチ区間である高崎~渋川について少し見ていきます。良く「群馬はクルマ社会」「鉄道は利用されない」と聞きますが高崎・前橋の鉄道の輸送密度を見ると札幌・仙台・新潟・岡山・広島・熊本と言った地方の政令指定都市のJR線輸送密度と比べて劣らないし、高崎~新前橋の34825人と言う数字は多分名古屋・福岡の大手私鉄の主要路線と比較してもそん色ない数値です。昼間の本数を見るとそれだけの利用者のある路線としては十分な本数が確保できているとは言い難い状況です。
しかしこれまでの見てきたとおり新前橋以北の列車が新前橋で打ち切りになったり、特急が減便・区間短縮される等年々不便となり、本来のポテンシャルを発揮できていないというのが現状であるというのは押さえておきたいところです。
北陸新幹線が群馬と関西・名古屋を結ぶ日を控えて県内で五指に入り、多くの惚れ込むリピーターを抱える優良観光地万座温泉を抱えるこの地域の観光を再び盛り上げる為の投資を
吾妻線の普通列車を担う211系、国鉄時代からの生き残りの大ベテランである
その前提で言えば、まず行うのは
・現状万座・鹿沢口あるいは新前橋止まりの列車をそれぞれ大前・高崎への延長
・高崎着8:00前後の大前始発普通列車の増発(高崎・前橋市内への通学の対応)
と言った普通列車ダイヤの整備となると思います。
211系の弟分213系、クロスシートなので群馬名物鳥飯系のお弁当を食べながら吾妻川を見つつ草津・万座へ
続いては速達列車の整備となります。こんな感じの列車はどうでしょうか?
・臨時も含め特急を長野原草津口から万座・鹿沢口へ延長、出来れば始発を上野から品川に変更
・臨時特急の走らない平日に臨時特急の走る時間帯に有料指定席を設定した快速列車を大前まで運行
・また土日・祝日も含め、特急が走らない大前発朝・夕方、高崎発夕方~夜間に大前~高崎間に有料指定席を設定した快速を運行
・快速は上の動画の213系をJR東海あるいは西日本から購入して運行
・また羽根尾、万座・鹿沢口のバスも快速・特急に併せて接続の改善したり増発を行う
吾妻線と寄り添う我妻川の光景@万座・鹿沢口
快速の目的は高崎乗換えで特急の補完する事と、高崎・前橋~吾妻線沿線相互の流動へのフォローです。売りは我妻川の渓流を見ながら高崎駅でも購入できるだるま弁当や群馬県で人気のある登利平のお弁当を食べて吾妻線沿線の観光地地域や観光地へ向かう事です。小さいとは言え、観光客に向けてお弁当などが売れる事は嬬恋村など沿線の自治体だけでなく高崎市など他所とこの地域を繋ぐジャンクションである地域を潤す面を意識してほしいというのもあります。また時期がいつになるかは分かりませんが北陸新幹線開業後は関西・名古屋からのお客も意識できるのではと思います。213系は現在高崎地区で走る主力車両の兄弟分と言える車両ですので、メンテナンスなどがしやすいというのが大きいです。
1800mの高原地と言う雰囲気が味わえる万座温泉
万座温泉の口コミ・評判@ゆこゆこより
投稿者:50代男性 訪問回数:3回以上 訪問・滞在の種別:宿泊 同行者・目的:夫婦・カップル旅行
1800メーターの高原地で夏は特に涼しく、高原の爽やかな風が気持ちいいです。白濁の露天風呂の。泉質は最高です、万座高原ホテルは4種類の源泉に入ることができる。秋は紅葉を楽しみ、冬はスキー場が目の前1年中楽しめる温泉地です
大盤振る舞いとも言える投資ですが、現在停滞している県内4位の集客力を誇る万座温泉を中心とした嬬恋村、長野原町の観光地の再活性化も含めて考えると高いものではないのではと考えています。上は万座温泉の口コミを集めたサイトからの引用ですが驚くのは投稿者の大半が50代以上、高齢化が進んでいる事です。しかしその反面、流行りの温泉街は無くても良質な温泉、落ち着いた環境、夏涼しく、秋の紅葉、冬のスキーと高原の恵まれた自然を愛するリピーターが多い、一度訪れた人たちに2度・3度と訪れさせる魅力ある観光地であるのも間違いないです。「東京のターミナルに○○行きと言う列車がきて行き先案内されるのはそれだけでも広告効果がある」と言うのはよく聞く話ですが、特急水上を失った水上温泉、特急草津を失った万座温泉が2010年代に2割近い来訪者を失ったのを考えると説得力を感じます。特急・快速を中心とした大盤振る舞いは万座温泉を中心とした良質な観光地を再び東京の若い人や東京に世界中から集まるインバウンド客、また今後北陸新幹線開業で群馬に近くなる関西・名古屋の人達に万座温泉を中心とした良質な高原観光地であるこの地域をアピールし新たなリピーターを確保するための投資と言うのは決して高いものではないのではないでしょうか?
地域の為、群馬県の為政治家とブレインの意地を見せてほしい
JR京葉線 再びダイヤ改正へ 朝の上りの快速を増やすなど@NHK2024/5/30より
ことし3月に行われたJR京葉線のダイヤ改正で、朝と夕方以降の快速の運行が大幅に減ったことに対し、見直しを求める声が相次いだことを受け、JR東日本が9月にも、朝の上りの快速を増やすなど、再びダイヤを改正する方針を固めたことが分かりました。
【詳しくはこちら】JR京葉線 朝と夕方以降の快速が各駅停車に 再検討求める声も ことし3月のJR京葉線のダイヤ改正では、ラッシュ時の通勤快速が廃止されたほか、朝と夕方以降の時間帯の快速が早朝の上り2本を除いて各駅停車に変更されました。
このため、京葉線を利用して東京方面に通勤する住民が多い千葉市など各地の自治体から、利便性が低下するなどとしてダイヤの再検討を求める声が相次いでいました。
こうした状況を受け、JR東日本はことし9月にも、朝の時間帯で上りの快速の運行を増やすなど、再びダイヤを改正する方針を固めたことが関係者への取材で分かりました。
停車駅が少ない通勤快速の運行は再開しないものの、快速での所要時間が従来より短くなる形でダイヤを編成し、乗客の利便性を確保する方向で検討を進めているということです。
今年3月京葉線のダイヤ変更で通勤快速廃止と言う話が出た時、千葉県知事や千葉市長を中心とする沿線・あるいは関係する自治体の首長たちは一斉に声を上げ反発しました。沿線外の人間からどう映るかは分かりませんが、沿線に住む住民たちにとっては「言うべきことを言ってくれた」と感じたのではないでしょうか?沿線に住む、特に一戸建てやマンションを買った人達から見たらこの通勤快速の廃止は東京への通勤利便性を低下させる「人生をかけた投資である家の価値を下げる許せない行為」であるわけで、もし首長たちが山本知事の様に「中立な第3者として調整する」と言ったらどうなったでしょうか?そしてこの吾妻線の事も県内で5指に入る有力な温泉である万座温泉を中心とした有力な観光地である嬬恋村・長野原町の観光に大きな影響を与えるのはこれまで特急草津や嬬恋村、万座温泉の話を見れば明らかで群馬県の大きな観光資産の価値を左右する話と言わざるを得ません。私はこのままいけば山本知事をはじめとする沿線の政治家は「地域の高校生の問題なので中立な調整者」と言うのは地域の主張としての責任を放棄していると言われてもおかしくないのではと感じます。
左:芸備線備後落合駅の利用者数推移、右:万座・鹿沢口駅利用者数推移、どちらもWikipediaより
この問題を考える時に、〇〇線の輸送密度は××人だと良く言われます。前に取り上げた芸備線の場合備後落合~東城は20人、今回の吾妻線長野原草津口~大前は263人と言われています。しかしwikipediaで2021年までの各駅利用者数が分かる芸備線はともかく2015年以降の各駅利用者数が全く分からない吾妻線の輸送密度は何を根拠にこの数字が出ているのか私にはさっぱり分かりません。簡単にでたらめと言う気はないですが誰かがこの数字はでたらめだと言ったら否定する根拠は全くないです。
芸備線各区間の経営状況@芸備線再構築協議会の協議体制について@中国運輸局2024/3/26
ご説明資料@JR西日本2023/8/2
芸備線と吾妻線2つの赤字旅客線の問題を調べて一番感じた違いは考える上での資料の豊富さの差、この差は地域の未来を考える政治家とブレインの思い、情熱、維持の差に見えて仕方ありませんでした。当然この手の話し合いを続けている時間の差が大きいのは言うまでもないですが、よそ者とは言え少なくない時間をかけて調べた人間のわがままな感想になりますが、群馬県、長野原町、嬬恋村に関わる政治家、そして彼らを支えるブレインの皆様、この沿線地域、そして群馬県の未来の為意地を見せてほしいそう思わずにはいられませんでした。