草食男子の定義は不明確だ。Wikipediaにすらそう書かれている。
草食系男子の定義は論者によって異なる。深澤は、「草食男子」を、『恋愛に「縁がない」わけではないのに「積極的」ではない、「肉」欲に淡々とした「草食男子」』と定義した。・・・森岡は、その後、「草食系男子とは、心が優しく、男らしさに縛られておらず、恋愛にガツガツせず、傷ついたり傷つけたりすることが苦手な男子のこと」と再定義した
(1)草食男子出現の原因
ここを読んでくれている人の中にも、最近の男は情けなくなったと思っている人が多いと思う。
しかし、俺はそうではないと思う。今のような環境で育ったら、どんな男も今の男のように育つんじゃないだろうか。外部的環境によるところが非常に大きい気がする。イノシシを飼うと、だんだんブタに近づいていくという。それと同じで、環境の影響というのは大きい。
男女平等に、給与水準の低下、この状況ならば、男が女に消極的になるのもやむを得ない(男女平等が悪いと言うつもりは全くない)。
また、これら2つの事象は、固定的であり、なかなか男の力ですぐに変わるものではない(男女平等はこのままでよい)。
そのほか、男を消極的にさせるような暗い話題が多い。だから、今のテーマは、「この生きにくい社会で男女協力していかに生き抜くか」であるべきだった。
しかし、草食男子という言葉で、今の男の消極性はすべて今の男自身が原因であり、昔に比べて男がその自らのふがいなさで劣化したような印象が世間に広まった(命名者にその意図はなかったようだ。参考記事)。
そうなると、「結婚できないのは男が悪い」となって、女からの歩み寄りが弱くなる。また、できるだけ勝ち組の男を見つけようと女同士の競争が激化している。
誰しもが自分だけは犠牲になりたくないと思うのは当然だが、日本経済が縮小しそうな中で条件闘争をするのは、こんな状況だからこそというのはあるにしても、不幸な出来事だと思うわ。結婚の圧力が弱い今、一定数の未婚者を出す方向に社会が進んでいる。
(2)理想の上昇
(1)を読んで、「なんだ、結局草食男子は多いんじゃないか」と思われた方もいると思う。しかし、男のふがいなさが原因で具体的な被害を受けている女は、実際は少ないと思う。その前に、理想の上昇というものがあるからだ。
理想が上昇しているから、適当な相手がいない。だから消極的、という面がある。
実際、アンケートを見ると、結婚しない・できない一番の理由は、「適当な相手がいない」ことだ。情報化社会になり、理想が上昇している。それは、定期更新終了のお知らせ 3でも触れたとおりだ。
草食だから消極的なのか、適当な相手がいないから消極的なのか、いずれにしても、男が女により積極的になる理由が見あたらないのが現状だ。
個人的には、草食よりも適当な相手がいない方が要因としては大きいと思う。もし好きな女がいるのに消極的ならば、消極的なりに女とつきあえる方法を探すはずであり、雑誌記事や本もそうした内容を扱うはず。しかし、そうした動きは知る限りほとんどない。そもそも男性誌の恋愛記事というのは、減っているんじゃないか?
(3)男の性欲への過信
女は男の性欲について過信しているところがあると思う。
確かに、痴漢などを見ると男の性欲は法を破るほど強いものに見えるが、大多数の男はそうではなく、社会環境に適合して消極的になる。もし性欲が減少しないのならば、女性誌の特集は「草食男子への対応」ではなく、「迫ってくる金のない男の見分け方」になるだろう。男の性欲はそれほど強くはない。
だから、「女に興味があるくせに」という前提はいつも成り立つとは限らない。「女に興味がないから消極的」というのも十分考えられる。
また、食欲がジャンクフードでも満たされるように、性欲も生身の女じゃないと駄目というわけではない。AVや風俗、ネットの発達で、もうそれだけで十分という男も多いと思う。特に、最近はコミュニケーション能力が低下していると言われているから(これも原因は外部環境だと思うが)、生身の女にハードルの高さを感じる男もかなりいるだろう。そんな男は、「遠くの親類より近くの他人」ならぬ「ハードルの高い生身の女より手元のAV」となるんじゃないだろうか。
その他、娯楽の多様化もあって、男の中における女の地位はかなりゆらいでいると思う。絶対的な地位ではなく、他の娯楽との競争を迫られている。だから、結婚・恋愛のコストやメリットの話が出てきている。コストやメリットで語るのがおかしいと思っても、男がそう思っているのなら、その対処法を考える必要があると思う。それと、コストやメリットの話が出てきているのは、女が男を条件で選ぶという認識が男にあり、それが影響しているのかもしれない。
(4)帰結
理想の上昇、娯楽の多様化、給与の低下、家電の発達、AVや風俗の発達、男女平等、結婚のメリット低下、結婚圧力の低下、など、男が女に消極的になる事情を見ると、とてもじゃないが草食男子と男を批判している場合ではないと思う。批判しても男は動けないし、一定の安定状態にもあるから、女の地位がゆらいでる。
より端的に言えば、
ゼロから考える少子化対策プロジェクトチームの資料
結婚の効用と結婚の負担感、コスト感とのバランスが崩れました結果として、結婚生活の魅力の低下ということが起きているのではないかということを示しております。
平均年収が上がれば未婚化問題は解決するか? 2
厚生労働省研究班の昨年9月の調査によると、セックスに無関心・嫌悪する男性の割合は2年前と比べ16〜19歳で17・5%から36・1%、20〜24歳で11・8%から21・5%と倍増した。
調査を担当した日本家族計画協会の北村邦夫(60)は、「セックスに限らず、男女間のコミュニケーションを面倒と考える人が増えている」と懸念する。
つまり、結婚や恋愛の魅力がコストに見合わないから、男は女に消極的になったという、どの分野でも起こりうる極めてありがちな現象が起こっているだけであり、今の男がとりたてて異常というわけではない。
もう一度言うが、「この生きにくい社会で男女協力していかに生き抜くか」がやっぱりテーマであるべきじゃないか? 草食男子という言葉で、結婚難の原因が全て男にあるかのように誤解する女が出たのは、残念だな。
(5)補足
俺がやたら草食男子を外部環境のせいとしたのは、実際に俺の知り合いのそういう奴を見るに、本人に責任があると思いにくいからだ。本人は至って真面目で、与えられた課題を乗り越えてきたように見える。真面目なだけじゃ駄目とはいえ、結婚や恋愛をするためのプロセスを欠いてきたことを本人のせいにする気にはなれないんよな。
アメリカの話だが、
【肥田美佐子のNYリポート】米ロストジェネレーションの悲鳴を聴け―進む若者の貧困と草食化
日本ではすっかり定着した感のあるパラサイトシングルも急増中だ。今年3月の時点で、25〜34歳の米国人の14.2%に当たる約600万人が、親と同居していた。07年には470万人だったことを考えると、大不況以来、25.5%も増加したことになる。男性の同居組は、女性の約2倍だ。この年齢層の婚姻率(44%)も、過去最低を記録した。「自立大国」米国でも、男性の草食化が進んでいる。
とある。これを見るに、草食男子の出現、すなわち恋愛に消極的な男の増加というのは、好景気後の長引く不景気による収入の減少、女性の社会進出(これが悪いというつもりはない)、仮想現実の発達、といった一定の外部事情を条件として、どこの国にでも起こりうる事象なんじゃないだろうか。日本の男が特に情けないというわけではないと思う。
もう一度書くが、草食男子という言葉で、非が男にあるかのような印象を持っている人も多いと思う。しかし、実際のところは外部事情によるものであって、男自身も改善の方法が見いだせないものな気がする。異性に関わっていけないというのは生物としては深刻な危機であり、この現象は例えば中世のペストの大流行のように社会全体で対応を考えていくべきで、女も歩み寄りが必要だろう。そういう点で、現象の原因を男に帰属させるかのような草食男子というレッテルは失敗だったかもしれない。
(6) 結局、何が言いたいかというと
帰結を書いてから話が続くのは不格好だが、結局俺が何を言いたかったかまとまった。
草食男子という言葉で、今の結婚難、恋愛難が男の責任であるかのような印象が広まった。
しかし、草食男子は、現在の外部環境から生じている問題であり、男自身による改善は難しいのではないか。
また、男と女との乖離が生じ、子どもが減少して国家が立ちゆかなくなるという社会的側面をより重視すべきである。
草食男子という言葉は、人々に「男の恋愛への消極化は男の責任」と感じさせ、現象の問題点を責任の所在へと矮小化してしまった気がする。今考えるべきは、責任の所在ではなく、社会的影響である。また、前述のように、男自身による改善は難しいと思われる。
だから、男が恋愛に消極的になるというこの現象は、社会全体で対応を考えていくべきであり、女も「責任は男にある」と批判するだけでなく、問題の解消のため能動的に行動すべきである。
こういうことだな。問題に対する男の責任を放棄しているのではなく、社会的、あるいは女から問題に対するアプローチをすることが問題解決により効果的なんじゃないかと思って、こう考えた。草食男子は男の責任、とするのは、太平洋の真ん中でおぼれている人に「おぼれているのは、あなたの責任だから、一番近い島まで50キロ、頑張って泳いで」と言うのに近いんじゃないかと思うんだわ。本人も好きでおぼれてるわけじゃないし、こう言うだけでは問題は解決しないだろ。
どういう言い方をすれば一番適切かわからないが、男が恋愛に消極的になったというのは、男の責任うんぬんではなく、もっと大きく、深刻に捉えるべき事象だと思う。
で、そういう認識の差異が政策面でどのような違いを生むかについて考えてみる。
まず、男が恋愛に消極的なのは、男の責任、つまり男の劣化だと考えた場合。この場合には、男は生身の女に興味はあるという前提があるので、男の能力を補完する方向だけで対策が打たれる。例えば、出会いの場の提供、マナー講座といった類だな。また、女は、男の問題だと思っているので、非協力的になる。
次に、男が恋愛に消極的なのは、外部的要因、すなわち社会環境にあると考えた場合。この場合には、男が生身の女に興味を持ちにくいというところから入るので、生身の女との交際は非代替的であるなどといった説明から行うことになる。また、男が女に興味を持ちにくいのは、男の劣化ではなく、人類が直面している男女共通の問題点なので、女も能動的に対策を考えるべき当事者である。そうなると、いくぶんか女の方からの歩み寄ろうという必要性が認識されるんじゃないか。
俺は、後者の考えで行く方がいいと思うわ。男女の利害対立の構図では、草食男子の問題は解決できないように思う。
(追記)
草食男子と呼ばれる今の男を擁護してきた俺だが、一つだけ外部環境の影響ではないと思っている問題がある。
それは、最近の大学生はあまり食べないという話だ。
ジャンクフードやお菓子はあまり食べない方がいいと思うが、飯は食べた方がいい。個人的な経験則だが、食べる量が多い奴は、体育会系だけではなく、高学歴にも多かった。明確な因果関係があると断言は出来ないが、エネルギーはあった方がいい。偏差値の高い大学のキャンパスに行くとやせている奴が多いが、食べている一方でエネルギー消費も大きいんだと思うわ。
食べることによって、生命維持以外にエネルギーが回せるようになり、それで女に興味がわくなんてこともあるかもしれない。
(追記2)
11月30日の「全く考慮されない男側の事情」で、「男は意外に清潔感のある奴がいる」と書いた。livedoorニュースの「異性に興味なし 童貞急増なぜだ!?」によると、どうも同日付の日刊ゲンダイに「大きな原因は男性が潔癖性になったこと」と書かれていたようだが、俺は日刊ゲンダイを見て書いたわけではない。ネットを見てるとそういう反応が多く、俺の知り合いにもそんな奴がいたので書いた。
(追記3)
追記がどんどん増えるが、一つ書くのを忘れていた。
それは、セクハラやストーカーの問題で男が女に消極的になったのではないかということだ。
セクハラに、ストーカー、非常によく聞く言葉だが、具体的にはどのような行為がセクハラやストーカー行為にあたるか、はっきりとわかっている人はいるだろうか? おそらく、ほとんどの人は、セクハラやストーカーの明確な判断基準を知らないだろう。 一説には、「女が不快と感じたらセクハラ」とも言われる。だとすると、男が誘いをかけてみただけで、「こんな男に誘われるなんて不快だからセクハラ」と言われる可能性もある。
冗談みたいな話だが、実際こんな記事があった。
男性専用車両がなぜ必要か?
「女性社員に髪型を褒めたらセクハラだと言われたんですよ。それからは容姿に関わることは褒め言葉でも絶対に口にしません」
こういったセクハラやストーカー行為の不明確さが、男を萎縮させている可能性がある。どんな行為がセクハラやストーカー行為になるかわからないんだわ。
しかも、セクハラやストーカーのレッテルは、非常に恥ずかしい。法的に問題になるもっと手前の合法的な行為でも、「セクハラやストーカーと言われたら」と考えると行動できないことがあるんじゃないだろうか。法的には問題がなくとも、女がセクハラだと騒げば、男の立場は悪化する。
職場での出会いが減ったと言われるが、行動のリスクが大きくなっている分、日常生活をしている領域では恋愛は出来ないと思っている男も増えてるかもしれない。
女からしたら「そんなこと言って臆病」 と思うのかもしれないが、セクハラやストーカー扱いはかなりきついだろ。特に真面目な奴ほど、萎縮してしまいそうだ。頭のおかしいストーカーなんかは、法律があろうとストーカー行為をするだろうけどな。