F爺・小島剛一のブログ

当ブログの7月10日付けの記事〈「食いしん坊」の「-し-」って何?〉では、
「暴れん坊」「甘えん坊」「慌てん坊」「怒りん坊」のように
〈動詞の謂わゆる「連用形語幹」(*)に「-ん坊」の付いた形の名詞〉
を取り上げました。

動詞の謂わゆる「未然形語幹」(**)に「-ん坊」の付いた形の名詞があります。
「利(き)かん坊」
です。

(*)(**)「連用形」や「未然形」は、学校文法の術語です。F爺著の『再構築した日本語文法』が未読の方のために、方便で、使用しています。そのため「謂わゆる」という「枕詞(まくらことば)」を付けているのです。

この名詞には、語構成に加えて、語義の特異性があります。

「利かん坊」は、
〈腕白で負けず嫌いの男の子〉
を指しますが、
〈利く子〉
ではなく、
〈利かない子〉
のことです。

つまり否定なのです。

「暴れん坊」「甘えん坊」「慌てん坊」「怒りん坊」「立ちん坊」などが全て
「暴れる人」「甘える人」「慌てる人」「怒る人」「立ったままの人」
と肯定の意味なのに、
「利かん坊」
だけは、否定の意味なのです。

そして・・・
「動詞の未然形語幹+-ん坊」
という構成の名詞は、他に思い浮かびません。

どうして一つだけ、二重の例外が成立してしまっているのでしょう。

自然言語は、奥の深い宝庫です。解き難い謎がそこここに見つかります。当該の言語を母言語としている者には、全てが「自然だ」と思えるため、なかなか謎の存在が見えません。