神・上・髪
- 2015/11/22
- 21:47
前置き
諸宗教の「神」のことをあれこれ言う前に、日本語の「神」という言葉が同音語の「上(かみ)」や類音語の「髪」とは無関係であることの確認をしておきます。これは、大学で日本語史の講義を受講なさった方は、先刻ご承知のことのはずです。
本文
「神」と「上」
日本では珍しくなったようですが、諸外国の大辞典(*)には、
〈日本語の「上(かみ)」「神(かみ)」「守(かみ)」(**)などは*同語源だ〉
と見て来たようなことを書いているものが未だに多数あります。それだけを読んだ何千万人もの非日本語人が誤った記述を鵜呑みにしています。
(*) 例えばフランスで「権威」のあるRobertロベール社の仏仏辞典など。
(**)「薩摩の守(かみ)」などの「守」。
「神(かみ)」と「上(かみ)」は、万葉時代には「ミ」の発音が異なっていました。「神」の「ミ」は、「乙類のミ」(*)で、「上」の「ミ」は、「甲類のミ」(**)です。混同の余地のない別語だったのです。
(*)(**) 上代特殊仮名遣いの「甲類のミ」「乙類のミ」については、ブログ記事「日本語の変化速度(5) 」を参照してください。
「上」と「髪」
「髪」の「ミ」は、「甲類のミ」です。「上方(かみがた)」「上座(かみざ)」「川上(かわかみ)」「裃(かみしも)」などの「上(かみ)」の「ミ」と同じです。
しかし、「髪」と「上」は、音調が違います。
高い音調の拍を太い文字で示すことにすると、現代語では、標準語で
「髪」は「かみ」、「上」は「かみ」です。
これも、混同の余地のない別語です。
《髪は頭の上に生えるものだから、「髪」と「上」は同語源だ》
という俗説を時に聞きますが、こじつけに過ぎません。
非日本語人は、日本語の音調のことを何も知らず、まして上代仮名遣いのことも知りませんから、ラテン文字転写の「kami」だけを見て「発音が同じだから同語源であり得る」と思い込み、上記の俗説を鵜呑みにして「引用」していることがあります。歎かわしいことです。
「Rightとwriteは、現代語では発音が同じだけれど、意味は全く違う。誰も語源が同じだとは言わないでしょう ?」
と言うと
「でも綴りが違う」
と抗弁します。
「発音記号で書けば同じです。『髪』と『上』と『神』だって、日本語では書き方が違うんですよ」
こう言っても分からない人は、F爺は相手にしません。
余談
「紙」
さすがに「紙」まで「髪」「神」「上」「守」などと関係付けようとする人は、見当たりません。仮にどこかにいたとしたら、曲芸的なこじつけを次から次へと思い付く天才的な能力の持ち主でしょう。
ところで、東京山手語とそれを基盤として成立した標準語では、「髪」と「紙」は音調が同じです。
しかし、金田一春彦監修の『明解 日本語アクセント辞典』(三省堂、1958年)の14ページに、札幌語、青森語、新潟語、高松語、大分語、福岡語、長崎語、鹿児島語では「髪」と「紙」は音調が異なると書いてあります。
この記述が正しいとすると、東京山手語や名古屋語、京都語、大阪語、広島語などで両語の音調が同じであるのは「偶々(たまたま)」だということになります。
暫(しばら)く前までのF爺なら、この辞典は信頼できる情報源だから引用しておしまい・・・としていたはずですが、今は違います。金田一春彦の著作は、鵜呑みに出来ません(*)。
(*) なぜなのか事情をまだご存じない方は、以下の二つの記事を参照してください。
「金田一春彦著の岩波新書」
「金田一春彦の場合」
札幌、青森、新潟、高松、大分、福岡、長崎、鹿児島などのご出身の方、「髪」と「紙」の音調か違うことを確認してお知らせいただければ幸甚です。
なお、秋田諸語では、「髪」と「紙」は音調が違います。「髪」は尾高型で「かみ」、「紙」は平板に「かみ」です。これは、F爺の生地(せいち)の言語ですから、断言できます。
諸宗教の「神」のことをあれこれ言う前に、日本語の「神」という言葉が同音語の「上(かみ)」や類音語の「髪」とは無関係であることの確認をしておきます。これは、大学で日本語史の講義を受講なさった方は、先刻ご承知のことのはずです。
本文
「神」と「上」
日本では珍しくなったようですが、諸外国の大辞典(*)には、
〈日本語の「上(かみ)」「神(かみ)」「守(かみ)」(**)などは*同語源だ〉
と見て来たようなことを書いているものが未だに多数あります。それだけを読んだ何千万人もの非日本語人が誤った記述を鵜呑みにしています。
(*) 例えばフランスで「権威」のあるRobertロベール社の仏仏辞典など。
(**)「薩摩の守(かみ)」などの「守」。
「神(かみ)」と「上(かみ)」は、万葉時代には「ミ」の発音が異なっていました。「神」の「ミ」は、「乙類のミ」(*)で、「上」の「ミ」は、「甲類のミ」(**)です。混同の余地のない別語だったのです。
(*)(**) 上代特殊仮名遣いの「甲類のミ」「乙類のミ」については、ブログ記事「日本語の変化速度(5) 」を参照してください。
「上」と「髪」
「髪」の「ミ」は、「甲類のミ」です。「上方(かみがた)」「上座(かみざ)」「川上(かわかみ)」「裃(かみしも)」などの「上(かみ)」の「ミ」と同じです。
しかし、「髪」と「上」は、音調が違います。
高い音調の拍を太い文字で示すことにすると、現代語では、標準語で
「髪」は「かみ」、「上」は「かみ」です。
これも、混同の余地のない別語です。
《髪は頭の上に生えるものだから、「髪」と「上」は同語源だ》
という俗説を時に聞きますが、こじつけに過ぎません。
非日本語人は、日本語の音調のことを何も知らず、まして上代仮名遣いのことも知りませんから、ラテン文字転写の「kami」だけを見て「発音が同じだから同語源であり得る」と思い込み、上記の俗説を鵜呑みにして「引用」していることがあります。歎かわしいことです。
「Rightとwriteは、現代語では発音が同じだけれど、意味は全く違う。誰も語源が同じだとは言わないでしょう ?」
と言うと
「でも綴りが違う」
と抗弁します。
「発音記号で書けば同じです。『髪』と『上』と『神』だって、日本語では書き方が違うんですよ」
こう言っても分からない人は、F爺は相手にしません。
余談
「紙」
さすがに「紙」まで「髪」「神」「上」「守」などと関係付けようとする人は、見当たりません。仮にどこかにいたとしたら、曲芸的なこじつけを次から次へと思い付く天才的な能力の持ち主でしょう。
ところで、東京山手語とそれを基盤として成立した標準語では、「髪」と「紙」は音調が同じです。
しかし、金田一春彦監修の『明解 日本語アクセント辞典』(三省堂、1958年)の14ページに、札幌語、青森語、新潟語、高松語、大分語、福岡語、長崎語、鹿児島語では「髪」と「紙」は音調が異なると書いてあります。
この記述が正しいとすると、東京山手語や名古屋語、京都語、大阪語、広島語などで両語の音調が同じであるのは「偶々(たまたま)」だということになります。
暫(しばら)く前までのF爺なら、この辞典は信頼できる情報源だから引用しておしまい・・・としていたはずですが、今は違います。金田一春彦の著作は、鵜呑みに出来ません(*)。
(*) なぜなのか事情をまだご存じない方は、以下の二つの記事を参照してください。
「金田一春彦著の岩波新書」
「金田一春彦の場合」
札幌、青森、新潟、高松、大分、福岡、長崎、鹿児島などのご出身の方、「髪」と「紙」の音調か違うことを確認してお知らせいただければ幸甚です。
なお、秋田諸語では、「髪」と「紙」は音調が違います。「髪」は尾高型で「かみ」、「紙」は平板に「かみ」です。これは、F爺の生地(せいち)の言語ですから、断言できます。