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死のテレビ実験 人はそこまで服従するのか(クリストフ・ニック+ミシェル・エルチャニノフ)

この作品は、国が全国民分買い上げて、全家庭に配るべき作品ではないかと思う。マジで、テレビが家に一台でもある人は絶対に読んだほうがいい。

まず、2009年、フランスのテレビ局が実際に行った、とある実験の内容を読んで欲しい。

『架空のクイズ番組のパイロット版(実際には放送されないので賞金が出ないと説明される)の収録に、慎重に選んだ一般参加者を集め、彼らに出題者になってもらう。彼らは問題を読み、解答者(実験協力者)が間違える毎に電気ショックを与えるよう指示される。電気ショックは一問間違える毎に電圧が上がり、最高で460ボルトまである。そしてその電圧まで行くと解答者を死に至らしめるかもしれない、と予感させるような状況にある。
さてその状況の中で、果たして参加者の内、何%の人が460ボルトまで電気ショックを与えただろうか。』

正解を書く前に、少し背景的な説明をしようと思います。
まずこの実験は、1960年代にアメリカのイェール大学でミルグラムという心理学者が行った、通称「アイヒマン実験」と呼ばれる、心理学の分野で非常に有名な実験をテレビに応用したものだ。
そのアイヒマン実験とはこうだ。ミルグラムは、記憶力に関する実験と称して被験者を募集し、科学実験という<権威>のもとで、被験者が見ず知らずの相手に対して電気ショックを与える場を設定した。実験内容は、被験者が「先生役」となって問題文を読み、「生徒役(学習者)の人」(実は実験協力者)がそれに答え、もし答えがまちがっていたら電気ショックを与える、というものだ。電気ショックの強さは間違える度に上がり、最高で450ボルトという、死んでもおかしくない強さに設定されている。
このアイヒマン実験は、当時大きな反響を巻き起こした。このアイヒマン実験では、実に60%強の人々が、450ボルトの電機食器を生徒役に与えたのだ。これは何度も追実験が行われ、その度に同様の結果が出ている、信頼できる実験である。
これは、『<権威>から良心に反する命令を受けた時、個人はどれくらいの割合でそれに服従するのか』を調べる目的で行われた実験だ。この実験の名前の元になっている、ナチス・ドイツで上司の命令により数百万人の人々を収容所に送る手配をしたアドルフ・アイヒマンは、当初とんでもない冷酷非常な人間である、と思われていた。しかしこのアイヒマン実験が行われ、その結果が広まるにつれ、善良な人間であっても権威から命令されれば自らの良心に反してでもそれに従ってしまう、という人間の行動が明らかにされたのだ。
冒頭で書いた実験は、そのアイヒマン実験の応用だ。この実験で目的としていることは二つある。一つアイヒマン実験と同じく、『人は服従しやすいのかどうか』である。そして、もう一つの目的の方がより重要である。それは、『テレビは<権威>を持つかどうか』である。
さてこの辺りで冒頭の実験の正解を書こう。アイヒマン実験では、最後まで電気ショックを与え続けた人は、全被験者の60%強だった。2009年に行われたクイズ番組を舞台にした実験では、なんと81%もの人々が最後まで電気ショックを与え続けたのだ。
本書は、この実験を思いついたフランスのテレビマンとその実験に協力した一人であるジャーナリスト兼哲学者による、どうしてこの実験をしようと思ったのかという話から、実験が実際にどう進みどんな結果が出たのか、そしてどうしてそういう結果になったのかまで考察している作品です。この実験の模様は、「死のテレビ実験」というタイトルで実際にフランスで放送され、本書の実験内容に関する部分は、そのドキュメンタリーをベースに書かれています。
本書は、大きく分けて三部構成である。
第一部は、「いかにテレビは過激になり、そしてその現状から、どうして自分たちがこの実験を思いついたのか。そして実験の準備をどれだけ綿密に行い、実際の実験はどう進行していったのか」という内容。
第二部は、「実験で現れた様々な個別の事象について詳しく触れつつ、被験者たちの心の動きや葛藤を分析する」という内容。
そして第三部は、「実験結果を受けて、それぞれについて考察を加えつつ、テレビという権力について総括する」という内容。
まず、第一部の冒頭で、どうしてこの実験を行うことにしたのか、という話が出てくるんだけど、その話は後回しにします。ここでは、『テレビがこれだけ過激であるという具体例』をいくつか挙げ、このままの流れで行けばいずれテレビは番組内で人を殺しかねない、だからこそ今このタイミングで、『テレビが<権威>を持つか否か』を確認する実験を思いついたのだ、という話なんだけど、その、『テレビがこれだけ過激であるという具体例』が本当に酷すぎるのだ。日本のテレビ番組が幼く見えるぐらいの過激さで、先にその話を書いてしまうと、そっちに引きずられて本書のメインの話に焦点が当たらなくなってしまうかもしれない気がしたんで、ちょっと後回しにします。
さてその後で、実験の準備と進行について描かれます。
実験の準備には二年以上の時間を掛けたそう。テレビのクイズ番組という雰囲気を出すために実際の演出家や脚本家に参加してもらい、臨場感のある番組作りを行う。また被験者を集めるのにもかなり慎重だった。アイヒマン実験でもこれは慎重に行われていて、なるべく被験者の層が均質になるように、マーケティング会社二社に依頼して被験者の募集を手伝ってもらった。
実際の実験についても、すべての被験者に条件が同じになるように慎重に進められていった。例えば一例として、タクシーで被験者をテレビ局まで連れて行く際、運転手はラジオのボリュームを上げるように指示されている。これは、被験者が運転手に話しかけないようにするための配慮である。
解答者に電気ショックが流れるというのはもちろんフェイクで、実際には電気ショックは流れない。また、出題者から解答者は見えない&会話が出来ない状況に置かれ、解答者による電気ショックを受けた反応などはすべてあらかじめ録音されたものが流されたのだ。
こうして、細部に渡って慎重な設計を行って、この実験は進められていった。統計学的に言っても、被験者の数は充分だというお墨付きをもらっているらしい。なのでこの実験には、テレビが好きな人だけ、嫌いな人だけ、あるいは水準の高い生活をしている人だけ、低い生活をしている人だけ、というような偏りはほとんどないし、実験手順についてもすべての被験者にまったく同じものが提供されたのだ。
その状況で、被験者たちは様々な反応を見せる。最後まで電気ショックを与え続けたのは81%、というのは確かにその通りだが、その人達も個別には様々な反応を見せたし、もちろん、途中で電気ショックを与えることを止めた19%の人たちも、一括り出来るような行動を取ったわけではない。ある程度のタイプ分けは出来るとはいえ、極限状況に追い込まれた被験者たちは、色んな行動を取る。それらについて、かなり詳細に書かれているのが第二部だ。
本書ではなんどか触れられているが、本書ではとにかく、被験者たちの心のケアが最優先に置かれた。どんな形であれ実験が終了したほぼその瞬間に、これはクイズ番組のパイロット版ではなく心理学の実験だったことが明かされた。実験後、しばらくその事実を伏せていれば、心理学的に得られた知見はもう少し増えただろうと思われる。しかし実験を行った側は、そのデータを捨てて被験者の心のケアを優先したのだ。この実験とアイヒマン実験とでは、細部で若干の相違があるが、この点も一つの相違点である。
第二部では、<変種実験>についても説明される。冒頭の81%というのは、<基本実験>の数字である。実験計画者たちは、微妙に条件を変えた<変種実験>をいくつか行うことで、<権威>の本質がどこにあるのか見極めようとしている。その詳細については本書に書かれているので是非読んで欲しいのだけど、<変種実験>では、服従する率が下がるものが多かった。ほんの僅かな条件の変化で、服従するか否かが決まる、と言ってもいい。本書で繰り返し書かれていることだけど、服従してしまうのはその人が残虐だからでも心が弱いからでもない。「<権威>に命令されたら残酷な行為に走る」というのは、決して他人事ではないのだ。だからこそ、この<変種実験>によって、どういう状況であればより危険なのかが明確になるし、それは知っておくべきだと思う。
第三部では、テレビの持つ<権威>の総括だ。テレビの危険性について様々なことが書かれていて、僕はそのいちいちにすごく納得できるのだけど、一番危険なのは、『面白ければ何をしてもいい』という『テレビ的な価値観』を『無意識の内に刷り込まれてしまっている』ということだろう。目に見える<権威>には対処のしようもある、しかし、テレビという目に見えない<権威>は、それが<権威>であることさえ認識するのが難しいから、余計に危険な存在である、というのは非常にその通りだと思いました。
というわけで、内容についてあれこれ書いてみました。
これは本当に凄い作品だと思います。今まで色んなノンフィクションを読んできましたけど、知的好奇心を刺激する作品(物理とか数学とか)は別として、これは僕の中で相当トップクラスにズドンと心に突き刺さった作品です。
僕は正直、もうほとんどテレビを見ていません。週に最高で3~4時間、週に30分も見ないということも別に普通です。高校時代ぐらいまでは結構テレビ見てましたけど、大学に入ってから見る時間は極端に減り、結局今ではほとんど見ていません。
どうしても、テレビを面白く感じられなくなってきているな、と思うのです。テレビは、最もマジョリティに対して開かれているはずのメディアなので、きっと今テレビを見ている人たちにとっては、テレビというのは面白いメディアなんでしょう。僕にはもうその感覚がついていけなくなってしまったのです。
そんな僕でも、本書を読んで、自分はどうなるだろう、と考えてしまいました。正直、普段あまりにもテレビを見ないので、テレビ的な価値観に凄く支配されているという実感はありません。ありませんが、恐らく本書で描かれる実験の被験者の中にも、そういう人はいたでしょうし、そういう人でも最後まで電気ショックを与え続けた人はきっといるだろう、と思うのです。
たぶん、僕の文章をここまで読んだ人も、『自分だけは大丈夫だ』と思っているに違いありません。自分はそんなことするはずがない、電気ショックを最後まで与え続けたのはその人が弱いからだ、自分はいつでもそんなゲームからは下りられる、たぶん電気ショックを最後まで与えた人が81%もいるのはフランスだからで、日本人はまた違うだろう等々。きっと色んな形で、『自分だけは大丈夫だ』とみんな思っていることだろうと思います。
でも、本書を読むと、そうは言っていられないと思います。普段テレビをほとんど見ない僕でさえ、ちょっと実際その実験に被験者として参加していたらどうなっているか分からない、と不安になるほどなのです。
自分で書くのもなんですが、僕は昔二回ほど、ちょっとだけテレビに映ったことがあります。カメラを持った人が僕のところに取材に来る、という経験が二度ほどある。その時僕は、テレビってちょっと怖いな、と思いました。
本書でも描かれているけど、『テレビ的な価値観』が広まると、『テレビが求める理想的な出演者』を演じようとしてしまうのです。これは僕も本当にそう感じました。カメラを向けられると、素のままの自分でいるというのはなかなか難しい。もちろん、素のままの自分でカメラの前に立てる人もたくさんいるだろうけど、恐らくそうじゃない人の方が多いだろうと思うんです。僕はそれでも、なるべく自分の意に反することはしたくなかったのですが、それでも、テレビに求められていることをやってしまった部分もある。本書で使われている文章をそのまま抜き出すと、『被験者たちの心の中には、参加すると決めた時点ですでに「自分で決心したからには、言われたことをしっかりやりとげなければならない」という気持ちが芽生えていた。』 本当にそういう気分は強く理解出来ます。
僕は個人的には、<権威>というものが嫌いで仕方ありません。僕のことを個人的に知っている人なら、僕がどれだけ『自分よりも立場が上の人』に反発しながら生きてきたのか、ということを知ってくれているのではないかなぁ、と思います。中学生の頃、担任の先生が勝手に決めたことに反発して決定をやり直すように求めたり、大学時代、委員だった僕は自らの直接の上司的な立ち位置の人に猛反発してとある集まりを欠席したり(恐らくそのサークル史上でも初かそれに近いぐらいの珍事だったんじゃないかなぁ)、バイト先の社員に間違っていると思うことをボロクソに言いまくったり、というような、上の人間が言っていることに素直に従うことが求められる現代社会ではまるで役に立たない社会不適合者なわけです。
誰かに支配されたり、誰かに服従しなくてはいけない状況というのが、性格的に耐えられない人間です。そういう状況になると、どことなく反発心が沸き上がってしまうような、そういう人間です。そんな僕なのだけど、それでも、テレビの取材の時は、このテレビという力に反発するのは難しい、と思わされてしまったわけです。
そういう自分なりの経験があるからこそ、本書はより強い実感を伴って読むことが出来た。この実験では、本当に被験者たちは様々な行動を取る。そのどれが自分であってもおかしくないのかもしれない、と本当に思った。
この実験で、葛藤なくクイズを止めることが出来た被験者はたった一人です。他の被験者と比べ物にならないくらい早い段階でクイズを止めることが出来たのはたった一人だけ。クイズを途中で止めることが出来た19%の内のほとんどは、悩みながらもかなりの電圧まで電気ショックを与え続け、ふとした思いつきやちょっとした状況の変化をうまく掴みとってどうにかクイズを止めることが出来たわけです。19%の人が、強い意思でクイズを止められたわけではない。ひょっとするとそのまま最後まで電気ショックを与えてしまったかもしれないけれども、どうにか必死の思いでそこから抜け出すことが出来た。本書を読むとそういう印象が凄く強いです。
だからこそ、ここまで僕の文章を読んでくれた方、絶対に『自分だけは大丈夫』と思わないでください。本書にもこんな風に書かれています。

『最後に、この実験に深く関わった者として、一言。人は自分で思っているほど強くはない。「自分は自由意志で行動していて、やすやすと権威に従ったりしない」、そう思い込んでいればいるほど、私たちは権威に操られやすすく、服従しやすい存在になるのである。』

さてここで閑話休題。初めの方で、後で書く、と言っていた、諸外国の過激なテレビ番組の話をここで書きましょう。たくさん書きたいんで、短く箇条書きのような感じで行こうと思います。

・アメリカのテレビ番組。賞金を獲得するために、参加者たちはゴキブリを食べたり芋虫がうようよしている水槽に頭を突っ込んだりする。

・イギリスのテレビ番組。マジシャンが銃を使ったロシアンルーレット(弾が一個だけ装弾されている)で、弾がどこにあるか当ててみせるという企画で、実際にそのマジシャンが自分に向けて銃の引き金を引く様を生放送でやった(実際は、5秒遅れで流したらしい)

・ブラジルのテレビ番組。ある犯罪捜査番組の司会者が、自らが関わっている麻薬密売の敵対組織のボスの殺人依頼をギャングに依頼した。そして警察より早く現場に着き、遺体からまだピストルの煙が上がっている死体を撮影する。

・スペインのテレビ番組。プロポーズ番組に呼ばれた女性。あなたにずっと思いを抱いている男性がこれからプロポーズします、と説明されるが、実はその男性はその女性のストーカーであり、女性はそのストーカーから逃れるためシェルターで暮らしていた。番組スタッフはその事実を知りながら女性を騙してスタジオに連れてくる。その女性は数日後に殺害された。

どうでしょうか。他にも様々な具体的なテレビ番組の例が挙げられるのだけど、正直頭おかしいんじゃないか、という気がしました。僕は本書のプロローグで、初めて81%という数字を目にした時、日本のテレビ番組のことを頭に浮かべながら、こんなに高い数字になるだろうか、と半信半疑でした。でもその後、この各国のテレビ番組の状況を読んで、なるほどテレビがこれだけ過激になっているなら、それは81%って高い数字になってもおかしくないか、と思ったのです(本書を読み終えた今では、その国のテレビのレベルがどうであれ、恐らく似たような数字になるだろう、と思っているけれども)。
でもこの部分を読んで、自分の価値観もテレビ的なものに支配されているのかもしれないな、と少し思いました。例えば日本のテレビでは、バラエティとかで食べ物で遊ぶことに対してクレームがくる風潮がここ数年で高まったように思う。本書を読むまでは、いいじゃんそれぐらい目くじらを立てなくたって、と思っていました。でも本書を読んで、もしかしたらそういう発想は、自分がテレビ的な価値観に支配されているだけなんじゃないか、という感じもしてきたのです。
『面白ければ何をしてもいい』という価値観をえいえんと流し続けたテレビ。その価値観に支配されると、『面白さ』を追求するためのあれこれにクレームをつける人たちを、『空気が読めない』と判断しがちだと思います。でも、それって本当にそうなのかな?と、僕は本書を読んでちょっと考えるに至りました。最近あんまり見ていないとはいえ、やっぱり子供の頃はかなりテレビを見てたし、テレビと共に育ってきたという部分は否定できないわけで、自分のあらゆる価値観が、テレビを通じて流れてくる価値観によってどう変質してしまっているのか、自分を見つめ直すことは大事かもしれない、と本当に強く思いました。
本書については書きたいことがまだまだたくさんありすぎるのだけど、細かいところまで書きだすとキリがないし、本書を読む楽しみを減らすことになってしまうかもしれないので、これぐらいに留めておくことにします。
最後に、本書の内容とは直接的には関係のないことを。
本書は、テレビは<権威>を持ちうるか、という実験でした。ここで言う<権威>とは、色んな要素が含まれるでしょうけど、その中の一つには、それに触れる者に容易に価値観を植えつける、という部分もあるのだろうと思います。
そしてその、容易に価値観を植えつける、という部分は、決してテレビだけが持つものではない、と思うのです。生活の中のあらゆる側面の中で、そういう部分は顔を出している。
僕は書店で働いているので、書店の話をします。書店も、『本を売る』という点に関しては、まだまだお客さんに『容易に価値観を植えつけることができる』存在だと思うのです。
だからこそ僕は、自分たちがどんな価値観を植えつけているのか、ということについて、もっと自覚的であるべきだ、と強く思うのです。
一例として、多面展開の例を挙げます。多面展開というのは、一箇所に本を10面とか20面とかとにかくワーっと並べて目立たせて売る、という手法です。
僕はこの多面展開が好きではないんですが、単純にこのやり方を否定したいというわけでもありません。ただこのやり方が、お客さんに対してどういう価値観の植え付けを担っているかという点について、自覚的でなくてはいけない、と思うのです。
あくまでもこれは僕のイメージだけど、お客さんの中には、『多面展開にされている→面白いんだ→買おう』という人はいると思います。これが僕の言う、容易に価値観を植えつける、ということです。それはやがて、『とりあえず多面展開されているものを買えばいい』という思考に繋がっていってしまうと思うのです。
別に、それが良い作品であれば(良い作品であると多面展開をする人間が信じていれば)、全然問題ない手法だと思います。でも、個人的には、『売れているから』『お客さんが求めているから』というだけの理由で多面展開をすることに、どうしても強い違和感を覚えてしまいます(本を読まない書店員が増えているので、そういう書店員は間違いなく存在するはずです)。それは本当に正しいやり方なんだろうか、と思ってしまうのです。もちろんこれには色んな意見があるでしょうし、反論も色々とあるでしょうが、少なくともその行為は、テレビが視聴率のために分かりやすい価値観を押し付けるのと似たような違和感を僕に抱かせます。
別にこの話は書店に限ったことではありません。現代社会では、恐らく様々な場所で、こういう価値観の植えつけ合いが行われているはずです。その流れに逆らうことは本当に難しい。でも、僕は個人的には、自分がどんな価値観の植え付けに加担しているのか、それについて自覚的であるべきではないか、という感じを強く持っています。もちろんこの言葉は、自分にも向けられているわけですが。
さて本当にこれで最後です。僕はつい最近、適菜収「ゲーテの警告」という新書を読みました。「ゲーテの警告」と本書をかなり近い時期に読んだことはただの偶然ですが、この二冊は本当に表裏を成す作品ではないか、と個人的に勝手に思っています。「ゲーテの警告」は、作中でB層と呼ぶ、自分ではあまり考えず、偉い人の意見を鵜呑みにする人たちの存在を明確にした作品です。そこで描かれるB層と、本書の実験で最後まで電気ショックを与え続けてしまった人たちは、僕の中で被る。もちろん多くの違いはあるが(実験の被験者たちは、権威に対して強制的に服従させられたのに対して、B層は強制的に服従させられるような環境にいるわけではないのに服従しているような振る舞いをしてしまう、というのが一番違う)、この二作を読むことで、現代社会の何かが浮き彫りになってくるような、そんな印象がありました。是非両作品を読んで欲しいと思います。
久しぶりに、ここまで衝撃的な作品を読みました。本当に、普段本をまったく読まないという人でも、これだけはとりあえず読んだ方がいいと思います。是非とも読んでみてください。

クリストフ・ニック+ミシェル・エルチャニノフ「死のテレビ実験 人はそこまで服従するのか」



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