悩み相談、ときどき、謎解き? 占い師 ミス・アンジェリカのいつ街角(成田名璃子)
内容に入ろうと思います。
主人公の田中花子は、勤めて7年目を迎えるOLだ。会社では腫れ物のように扱われている。プライベートを詮索したり残業させたりすると不幸が起こる、という噂が流れている。しかし、彼女にとってそんなことはどうでもいい。自分は、心の内側に秘密の部屋を持っていて、そこで一人考えにふけっている。幸せだ。秘密の部屋の外側の出来事は、鍵穴からそっと覗くだけ。深く関わるつもりもない。これまでもそうやって一人で生きてきたし、それで充分だ。
草木と会話することの多い花子は、ある時名案を思いつく。世の女性達は、ありあまるエネルギーを無駄なお喋りとか恋愛につぎ込みすぎている。彼女たちのそのエネルギーを、地球の緑化に役立てることは出来ないだろうか?
そこで花子は、「アンジェリカ」と名乗り、街角で占い師をやることにした。占いで稼いだ金額全てを、地球の緑化のために寄付するのだ。
占いなんてでっちあげで適当にやっているだけなのだけど、祖母が占い師だった影響なのか、時々ふっと言葉が降りてくることがある。それは、降りてきた瞬間に自らの意思とは無関係に口から飛び出てしまい、しかも意味はわからない。ただ、言われた当人には思い当たるフシがあるようで、それによって「よく当たる!」と評判になり、毎日行列が出来るほどになった。
ある日、男の人に声を掛けられた。それまで気づかなかったのだけど、自分が占いをしているすぐ後ろで、自作のキャンドルを売っているのだそうだ。誠司というその男は、何を気に入ったのかアンジェリカにまとわりつくようになり、時々占いの相談者の人生にまで首を突っ込んでいくことになるのだけど…。
「カツン、カツン、と胸は鳴る」
ついこの間亡くなった父方の祖母が書いたという手紙を持ってやってきた女子高生。恐らくその手紙は、祖母が書いたまま出さなかった手紙だと思われるが、受け取るはずだった男性の名前に、家族一同心当たりがない。とにかく、その人の家を知りたいとやってきたのだったが…。
「南半球の友人」
高校時代、花子には翠という名の親友がいた。ひと目見た瞬間から、自分と同じように秘密の部屋を持っていると分かった。話は物凄く合い、いつまでだって喋っていられた。でも、翠が抱えていた現実は、花子とは全然違っていた…
「とんがりおもちゃ」
弟がいなくなったから探して欲しいと訴える男の子。万札も入っている貯金箱を持ってきていた。話を聞いてみると、弟というのは人気の戦隊ヒーロー物のフィギュアなのだという。適当に応対しようとするが…。
「ミス・アンジェリカは見た!」
恐らくどこかの会社の社長だと思われる人物が、妻が陰でコソコソ何かしていると疑っている。何をしているのかわからないが、占いで分かるなら見てもらえないか、と。それでもなぜか浮気を疑っている様子はないのだけど…。
「不完全な未来」
親友の居所を知りたいと切実に訴える女子高生。アンジェリカは占うが、降りてきた言葉が二択だった。今までそんなことはなかった。連絡が取れなくなった親友の名前が、漢字は違うけど「碧」だったせいで冷静ではいられなかったのだろうか…。
というような話です。
個人的にはちと評価は辛くなってしまうなぁ。
僕が気になったのは大きく二点。
まずは、占い中に時々「言葉が降りてくる」という設定。これはちと、万能過ぎるのですよね。
なんでかって、謎を生み出すのにも使えるし、謎を解決するのにも使えちゃうからなんです。とにかく、何だって出来る。この、「自分でも意味は分からないけど唐突に降りてくる言葉。しかもその内容は100%正しい」っていう設定は、物語をテンポよく進めていくのにはうってつけの設定だなとは思うんです。謎解きって、真相にたどり着く過程でダレちゃうことがよくあるから、そういう意味では悪くない。だけど、あまりにもこの設定が万能すぎて、物語を都合よくどんな風にでも展開させることが出来てしまう、という点が、個人的には一番評価できないところかなぁ、と思いました。
それに関連して、謎に意外性がないというのもちと辛い。「言葉が降りてくる」という設定は万能感満載なんだから、もっとハチャメチャな謎でもいいんじゃないかと思う。ハチャメチャまで行かなくても、もっと意外性のある、変わった謎を設定した方が、単純に物語は面白くなるよなぁ、と思います。けど、なんというか、全体的にとても小さくまとまっている。普通に読むと、物語の軸は謎解きにあるはずだと思うんだけど、でもアンジェリカと誠司の恋模様的な部分もかなり描写されていく。そこをもっと減らして、謎的な部分に注力した方が、設定を全体的に活かせるんじゃないかなぁ、とか思ったり。
もう一点は、アンジェリカの設定のちぐはぐさです。アンジェリカは、たぶん年齢的にもう30歳近いと思うんだけど、その人生30年近くを、ほとんど他者と関わることなく生きてきた、と書かれているわけです。子供の頃も、大人になってからも、他者と関わることなく、自分の内側にある「秘密の部屋」に閉じこもって、ただの観察者として他者を扱っていた、というようなことが繰り返し書かれるわけです。
なのに、誠司に一目惚れしちゃうのですよね。まあ、アンジェリカの中では、「惚れてるなんてわけがない」的な葛藤があったりして、それが物語のもう一つの軸だったりもするんですけど、どうもそれに納得感が足りないのですよね。「南半球の友人」で描かれる翠は、アンジェリカと同類だったから、普段他者と関わらないアンジェリカが仲良くなるのはわかる。でも誠司は、描写されている限りを見ると、別にどこにでもいる普通の男だと思う。誠司ぐらいの男なら、アンジェリカのそれまでの人生にもたくさんいただろう。じゃあ顔が好みだったのか?それだって、それまでの人生に好みの顔の男に会ったことぐらいはあるでしょう。そう考えると、完全に門戸を閉ざして生きているアンジェリカが、どうして誠司に惹かれたのかという部分が、どうもしっくり馴染まない気がするのです。
個人的にはその二点が凄く気になって、なかなかうまく評価することは出来ないなと感じました。
作中の話では、「南半球の友人」が一番好きですね。正直この話だけ全体の中で浮いているんだけど、イルカの話とか、そのイルカの話を二人の関係になぞらえたりだとか、翠のキャラクターだとか、結構色々面白いなと思えました。
成田名璃子「悩み相談、ときどき、謎解き? 占い師 ミス・アンジェリカのいる街角」
主人公の田中花子は、勤めて7年目を迎えるOLだ。会社では腫れ物のように扱われている。プライベートを詮索したり残業させたりすると不幸が起こる、という噂が流れている。しかし、彼女にとってそんなことはどうでもいい。自分は、心の内側に秘密の部屋を持っていて、そこで一人考えにふけっている。幸せだ。秘密の部屋の外側の出来事は、鍵穴からそっと覗くだけ。深く関わるつもりもない。これまでもそうやって一人で生きてきたし、それで充分だ。
草木と会話することの多い花子は、ある時名案を思いつく。世の女性達は、ありあまるエネルギーを無駄なお喋りとか恋愛につぎ込みすぎている。彼女たちのそのエネルギーを、地球の緑化に役立てることは出来ないだろうか?
そこで花子は、「アンジェリカ」と名乗り、街角で占い師をやることにした。占いで稼いだ金額全てを、地球の緑化のために寄付するのだ。
占いなんてでっちあげで適当にやっているだけなのだけど、祖母が占い師だった影響なのか、時々ふっと言葉が降りてくることがある。それは、降りてきた瞬間に自らの意思とは無関係に口から飛び出てしまい、しかも意味はわからない。ただ、言われた当人には思い当たるフシがあるようで、それによって「よく当たる!」と評判になり、毎日行列が出来るほどになった。
ある日、男の人に声を掛けられた。それまで気づかなかったのだけど、自分が占いをしているすぐ後ろで、自作のキャンドルを売っているのだそうだ。誠司というその男は、何を気に入ったのかアンジェリカにまとわりつくようになり、時々占いの相談者の人生にまで首を突っ込んでいくことになるのだけど…。
「カツン、カツン、と胸は鳴る」
ついこの間亡くなった父方の祖母が書いたという手紙を持ってやってきた女子高生。恐らくその手紙は、祖母が書いたまま出さなかった手紙だと思われるが、受け取るはずだった男性の名前に、家族一同心当たりがない。とにかく、その人の家を知りたいとやってきたのだったが…。
「南半球の友人」
高校時代、花子には翠という名の親友がいた。ひと目見た瞬間から、自分と同じように秘密の部屋を持っていると分かった。話は物凄く合い、いつまでだって喋っていられた。でも、翠が抱えていた現実は、花子とは全然違っていた…
「とんがりおもちゃ」
弟がいなくなったから探して欲しいと訴える男の子。万札も入っている貯金箱を持ってきていた。話を聞いてみると、弟というのは人気の戦隊ヒーロー物のフィギュアなのだという。適当に応対しようとするが…。
「ミス・アンジェリカは見た!」
恐らくどこかの会社の社長だと思われる人物が、妻が陰でコソコソ何かしていると疑っている。何をしているのかわからないが、占いで分かるなら見てもらえないか、と。それでもなぜか浮気を疑っている様子はないのだけど…。
「不完全な未来」
親友の居所を知りたいと切実に訴える女子高生。アンジェリカは占うが、降りてきた言葉が二択だった。今までそんなことはなかった。連絡が取れなくなった親友の名前が、漢字は違うけど「碧」だったせいで冷静ではいられなかったのだろうか…。
というような話です。
個人的にはちと評価は辛くなってしまうなぁ。
僕が気になったのは大きく二点。
まずは、占い中に時々「言葉が降りてくる」という設定。これはちと、万能過ぎるのですよね。
なんでかって、謎を生み出すのにも使えるし、謎を解決するのにも使えちゃうからなんです。とにかく、何だって出来る。この、「自分でも意味は分からないけど唐突に降りてくる言葉。しかもその内容は100%正しい」っていう設定は、物語をテンポよく進めていくのにはうってつけの設定だなとは思うんです。謎解きって、真相にたどり着く過程でダレちゃうことがよくあるから、そういう意味では悪くない。だけど、あまりにもこの設定が万能すぎて、物語を都合よくどんな風にでも展開させることが出来てしまう、という点が、個人的には一番評価できないところかなぁ、と思いました。
それに関連して、謎に意外性がないというのもちと辛い。「言葉が降りてくる」という設定は万能感満載なんだから、もっとハチャメチャな謎でもいいんじゃないかと思う。ハチャメチャまで行かなくても、もっと意外性のある、変わった謎を設定した方が、単純に物語は面白くなるよなぁ、と思います。けど、なんというか、全体的にとても小さくまとまっている。普通に読むと、物語の軸は謎解きにあるはずだと思うんだけど、でもアンジェリカと誠司の恋模様的な部分もかなり描写されていく。そこをもっと減らして、謎的な部分に注力した方が、設定を全体的に活かせるんじゃないかなぁ、とか思ったり。
もう一点は、アンジェリカの設定のちぐはぐさです。アンジェリカは、たぶん年齢的にもう30歳近いと思うんだけど、その人生30年近くを、ほとんど他者と関わることなく生きてきた、と書かれているわけです。子供の頃も、大人になってからも、他者と関わることなく、自分の内側にある「秘密の部屋」に閉じこもって、ただの観察者として他者を扱っていた、というようなことが繰り返し書かれるわけです。
なのに、誠司に一目惚れしちゃうのですよね。まあ、アンジェリカの中では、「惚れてるなんてわけがない」的な葛藤があったりして、それが物語のもう一つの軸だったりもするんですけど、どうもそれに納得感が足りないのですよね。「南半球の友人」で描かれる翠は、アンジェリカと同類だったから、普段他者と関わらないアンジェリカが仲良くなるのはわかる。でも誠司は、描写されている限りを見ると、別にどこにでもいる普通の男だと思う。誠司ぐらいの男なら、アンジェリカのそれまでの人生にもたくさんいただろう。じゃあ顔が好みだったのか?それだって、それまでの人生に好みの顔の男に会ったことぐらいはあるでしょう。そう考えると、完全に門戸を閉ざして生きているアンジェリカが、どうして誠司に惹かれたのかという部分が、どうもしっくり馴染まない気がするのです。
個人的にはその二点が凄く気になって、なかなかうまく評価することは出来ないなと感じました。
作中の話では、「南半球の友人」が一番好きですね。正直この話だけ全体の中で浮いているんだけど、イルカの話とか、そのイルカの話を二人の関係になぞらえたりだとか、翠のキャラクターだとか、結構色々面白いなと思えました。
成田名璃子「悩み相談、ときどき、謎解き? 占い師 ミス・アンジェリカのいる街角」
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[日々の冒険]悩み相談、ときどき、謎解き? 日常の人間関係ミステリー
悩み相談、ときどき、謎解き?―占い師ミス・アンジェリカのいる街角 (メディアワークス文庫) ミス・アンジェリカは、祖母譲りの霊感を持つ街占占い師。 占いを勉強中の私としては、霊感を持つ設定はうらやましい。霊感や超能力にあこがれる平凡な私です。 ネッ