科学の栞 世界とつながる本棚(瀬名秀明)
内容に入ろうと思います。
先に書いておきます。今回の感想は、引用だらけになります。とにかく、引用したくなるような素晴らしい文章に満ち満ちた作品なんです!
本書は、いわゆる書評集です。しかも、大なり小なり『科学』というものと関わる本についての書評集です。
ここまで読んだ時点で、あっ私には関係ないや、と思った方。もう少し僕とお付き合いくださいませ。
まず、「はじめに」で書かれている文章が素晴らしい。引用を織り交ぜつつ、著者がどんな想いで科学に関する本の書評を書いているのか、本書を通じて何が伝わってほしいのか、ということを書いていこうと思います。
まず著者は、本書を三人の読者へ届けたい、と書いています。その三人とは、『これから進路を決めようとしている中学生や高校生』『いま社会で働きながら、読書の愉しみとともにあるあなた』『私の父』です。
中高生については置いておいて、社会人に対しては、『そうしたあなたと科学書の話ができたらと願ってこの本をつくりました』、自身の父については、『学術に専念した人生を送ったからこそ、ピュアな好奇心がその先にある。そうした父に楽しんでもらいたいと願い、私はこの本をつくりました』と書きます。
中高生に対しては、こんな素敵な文章を届ける。
『本書があなたに伝えたいのは、科学実験が好きで読書が好きな人生ってすばらしいじゃないか、ということなのです。あなたは理系に進んでも小説好きでいられるし、文系に進んでも科学を楽しむことができる。そして未来をいま真剣に考えているあなたは、おそらく自分が将来どのように社会に貢献できるかと悩んでいることでしょう。科学の本を読むということは、そうした悩みに向き合いm未来を考えてゆくことでもあるのだと伝えたい。』
その後著者は、「科学の本を読むというのは、一体どういうことなのか」と問い、それに答える。僕は元々理系で、科学的な事柄に凄く興味があったので、自発的に科学の本を読んできた。しかし、そうではない人たちにとって、科学の本というのはハードルが高い、というのも凄く想像出来る。僕は歴史が苦手なのだけど、そんな僕が、なんの情報もないままとりあえず歴史の本を選んで読んでみろ、と言われるようなものだろう。
著者は、科学の本を読むということは、ちょっと違った体験をもたらす、と書いています。
『もとの生活に還るための、日常を取り戻すための本と違い、本書に登場する科学書の多くは、むしろ読むとあなたに新たな疑問や謎を残すでしょう。本のページを閉じた後、世界はもとに戻るのではなく、むしろ変化して見えるでしょう。世界があなた自身にチューニングされるのではなく、いままで少しばかり社会のしがらみにとらわれていたあながた、本来の宇宙に調律される、それが科学の本を読むということなのだと思います。』
『そうした豊かで複雑な私達の心のあり方が、宗教観も生活習慣も違う異国の人々に想いを馳せ、見ることさえできないはるかな宇宙のイメージに胸踊らせる、人間ならではの読書の歓びを産み出すのです。』
『自由を求めて社会を変えることを革命と呼びますが、科学の本を読むことは、ささやかな娯楽であると同時に小さな革命なのだと思います。この世界を、宇宙を見るために、自分が少しだけ変わるのですから。』
そうした、科学書を読むことの素晴らしさを伝えたあとで、著者は、科学の本を読む歳のコツやスタンスを教えてくれる。特にそれまで科学的な本と触れて来なかった人には、科学の本とどう向き合ったらいいか悩むことだろう。僕だって、歴史の本をどう読みどう捉えたらいいのか、誰かに手助けしてもらえなければ、ちょっと辛いかもしれない。
『科学の本を読むときも、だから周りの声なんか忘れて、自分ひとりで向きあうのがいいのです。読後の感想をブログやソーシャルサービスに書いている人も、「的外れなことをいって笑われたらどうしよう」と周囲を気にする必要なんてない。』
『ひとつだけ科学の本を愉しむコツがあるならば、類似した分野の書物をいくつか謙虚に読んでみることでしょう。ちょうど小説の分野を開拓するときのように。』
そして最後に著者は、本書をどんな風に捉えて欲しいのか、という自らの希望を書く。本書は、「科学書の書評をし、その本に興味を持ってもらうこと」だけを目的に書かれているのではない。
『本書は書評を集めた本ですが、本当のことをいえば、ここに掲載した書物が大切なのではありません。未来にああなたがきっと手に取るであろう、いまは世に出ていない科学の本のために、この書評集をつくりました。』
『私たちにとって科学のホントはどのようなものであり、それを読むとはどのような愉しみであるのか。読むことでどのような未来がつくられるのか。それが本書の主題なのです。どのように科学の本を読むことがおもしろいのかと考えてゆけば、次に新刊書を見つけたとき、「これはおもしろそうだ」とあなた自身のアンテナが働くのではないか。』
どうでしょうか。本書に興味を持ってもらうことは出来たでしょうか?ここまで読んでもらって、それでもやっぱりこの本は自分には関係ないな、と思われたら、まあそれは仕方ありません。諦めます。でも、ここまで読んで、なるほど科学書ってちょっとハードルが高いような気がしてたけど、この本を頼りに読んでみたら面白いかもしれないぞ、と思ってもらえたら嬉しいです。
本書はまさに、新しい世界の扉そのものだと思います。ドアノブこそついていませんが、ページをめくることで、鍵なんかなくたって、あなたはそれまで知らなかった芳醇な世界へと旅立つことができます。それまで自分の身近に科学書がなかった人にこそ、この本をまず手にとって欲しい。本当にそう思います。
というわけで以下、『書評の中にキラリと光言葉があった』本について、その文章の引用と共に書いてみようと思っています。僕が既に読んでいるかどうか(読んでいる本も多少ありました)、あるいはその本を読みたくなったかどうか、ということとは関係なしに、純粋に、書評の中の文章に惹かれたかどうか、という基準で選びます。かなり多くなると思いますけど、気が向いたら読んでみてください。
「ぼくドラえもん」増刊「もっと!ドラえもん 5」『「のび太と恐竜」に感動した皆さんのなかから、未来の恐竜学者が生まれるだろう。それが物語の力と科学の夢なんだと僕は思う。』
ジョン・ブロックマン「キュリアス・マインド ぼくらが科学者になったわけ」『だがここで本当に重要なのは、登場する27人全員がずっと何かに興味を持ち続け、ふしぎだ、おもしろい、と思う自分の気持ちを大切にし続けてきたことだ。それなら誰もが今日からできることだ。』
森博嗣「森博嗣の半熟セミナ 博士、質問があります!」『だから愛らしいこの本に関しては、少し変わった活用法を提案したい。まずは誰かに森さんの設定した質問テーマだけを書きだしてもらう。そして「自分ならこの質問にどう答えるだろう?」と考えてみるのだ。』
星新一「人民は弱し 官吏は強し」『この本のすごみが身に染みるようになったのは、ぼくが大学で薬学を学んでからだ。10代のときに読んでいてよかったと心から感じた。ぼくが薬学をいまも心の故郷にしているのは本書の影響だろう。』『いまは難しいと感じてもいい。どうかこの本を大切に置いていてほしい。いつかきみが本当に科学をめざすとき、この本はかけがえのない宝となるはずだ。』
森博嗣「創るセンス 工作の思考」『森のノンフィクションには常に真っ当、当たり前なことが書かれている。だが工学分野で類似の書き手が少ないため、相対的にエキセントリックに見えるに過ぎない。』『工作とは基本的に不可逆な好意であり、必ず部分的な破壊を伴う。』『理科離れ対策は、まず大人がものづくりを楽しむことだという主張は見事に真っ当である。』
前田知洋「人を動かす秘密のことば なぜあの人は心をつかむのが上手いのか」『ぼくも趣味でカーdkマジックを練習することがあるけれど、誰かに演じるときは技術よりコミュニケーションが大事だということが実感できる。』
玉井真理子「遺伝医療とこころのケア 臨床心理士として」『現代社会において生命の意味を考えることは、背負っている思い荷物を腰をかがめてもう一度背負い直すことだそうだ。ならば荷物の重さを感じる感受性を失わないこと、腰をかがめるのをいとわないこと。』
A・R・ルリヤ「偉大な記憶力の物語 ある記憶術者の精神生活」『ルリヤさんはシィーを通して、人が言葉を、世界を認識するとはどういうことかという、大切な問題を投げかけてくる。』
スティーブン・ジョンソン「マインド・ワイド・オープン 自らの脳を覗く」『閃きの瞬間、脳内で何が起こっているのか。およそ創造的な仕事についている人なら一度は考えたことがあるはずだが、本書の著者は自分を被験者にしてこの難問に挑戦する。』
中村徳子「赤ちゃんがヒトになるとき ヒトとチンパンジーの比較発達心理学」『ヒトでもチンパンジーでも赤ちゃんにとって愛着相手とは、常に世界へ好奇心を掻き立てる窓口であり、また情緒的に混乱したとき自分を回復させる拠りどころなのだ。』
ビル・マッキベン「人間の終焉 テクノロジーはもう十分だ!」『遺伝子工学やナノテクノロジー、ロボット学などの技術がこのまま進んでいったとき、いずれ私たちは自分の子どもをデザインする誘惑に駆られるようになるだろう。』
下條信輔「サブリミナル・インパクト 情動と潜在認知の現代」『コカ・コーラはあらかじめブランド名を知って飲むと脳のある部分が活動するのに、ペプシだとさほど反応しない。ペプシは脳科学的にもブランド戦略に失敗している』
池谷裕二「単純な脳、複雑な「私」」『本書の書評のため初期の著作から刊行順に彼の足跡を一気に読んでたどり、そうだよ、研究者はいつだってこうやって一人の人間として歩んでゆくんじゃないか、と心のなかでうなずいた。』
ダン・ガードナー「リスクにあなたは騙される 「恐怖」を操る論理」『理性に基づき、客観的に情報と向き合う「頭」だけでリスクが判断できれば苦労はしない。人は主観的な「腹」の感情に振り回される。』
吉川肇子+矢守克也「クロスロード・ネクスト 続:ゲームで学ぶリクス・コミュニケーション」『神戸市の職員有志はこのゲームを通じて若い職員へ震災の記憶を伝えた。』
新妻昭夫(文)+杉田比呂美(絵)「ダーウィンのミミズの研究」『興味を持った新妻さんは、ダーウィンの仕事を調べ始める。この絵本「ダーウィンのミミズの研究」をめくれば、ダーウィンの熱意が新妻さんに乗り移ったことがわかるだろう。』
クリスタン・ローソン「ダーウィンと進化論 その生涯と思想をたどる」『科学の発見はその時代とかたく結びついている。歴史や社会が科学とつながるという事実に驚くかもしれない。でもこれが本当の科学への第一歩だ。』
シャロン・モアレム+ジョナサン・プリンス「迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか」『なぜぼくたちは体によくない遺伝子を受け継いでいるんだろう?迷惑な遺伝子も実は人類進化の過程で重要な意味を持っていたのでは?』
ジョナサン・マークス「98%チンパンジー 分子人類学から見た現代遺伝学」『「人間の本性は人間にできることの範囲にすぎない」と著者は明快にいう。だが私たちは自分と他人の範囲の差ではなく、絶対的な違いとして捉えてしまうものだ。その境界に起ち現れるさまざまな差別や摩擦に、私たちはどう向かってゆけばよいのか。』『科学は物事の見方である。あなたたちの考え方は科学的に間違っているということはたやすいが、それもまたひとつの自民族中心主義なのではないかと著者は指摘する。』
カール・ジンマー「「進化」大全 ダーウィン思想:史上最大の科学革命」『長い休暇が取れたら本書を持って都会を離れ、くつろぎながら何度も読み返してみたい。自分の内にあったナチュラリストの精神が、きっと蘇ってくるだろう。』
ピーター・D・ウォード「恐竜はなぜ鳥に進化したのか 絶滅も進化も酸素濃度が決めた」『本書は恐竜が鳥に進化した理由だけを書いた本ではない。』
長谷川善和「フタバスズキリュウ発掘物語 8000万年の時を経て蘇ったクビナガリュウ」『後にフタバスズキリュウと名づけられたこの化石はブームを起こし、藤子・F・不二雄のマンガ「のび太の恐竜」のモチーフともなった。(中略)本書は「のび太の恐竜」に一度も言及しない。』
八代嘉美「iPS細胞 世紀の発見が医療を変える」『何よりすばらしいのは、ES細胞やiPS細胞を学ぶことは医療の未来を開くばかりではなく、生命の根源を探求することであり、それはわくわくすることなのだというスタンスに貫かれていることだ。類書にない大きな特長である。』
カール・ジンマー「大腸菌 進化のカギを握るミクロな生命体」『大腸菌(E・コリ)を語ることはすなわち遺伝子研究の歴史を語ることだ。(中略)大腸菌を主役に据えて遺伝子研究の勃興期から黄金時代までを語ってみせる。』
武田康男「楽しい気象観察図鑑」『こんなにクオリティの高い写真集をまとめるまで、いったいどれほど長い時間、著者の武田康男さんは空を見続けてきたのだろう。』『この本がすばらしいのは、美しい写真を眺めることで減少が理解できることだ。その瞬間から世界が鮮やかに生まれ変わる。』
リチャード・ノートン「隕石コレクター 鉱物学、隕石学、天文学が解き明かす「宇宙からの石」」『本書を読んでいると隕石の手触りさえ想像できる。』『この本が見事なのは、隕石について読むことで、生命や地球、宇宙の謎まで視野が広がってゆくことだ。』
サイモン・シン「宇宙創成」『著者のサイモン・シンさんは謝った理論を唱えた人を決して避難しないが、アインシュタインさえも英雄として書かない。そこがすばらしい。すべての科学者がいきいきとしている。』
アーサー・C・クラーク「楽園の日々 アーサー・C・クラークの回想」『人工衛星を使えば世界中にテレビ中継できるというアイデアを1945年に初めて発表したのは、後に宇宙科学の解説者として頭角を現すことになる28歳のアーサー・C・クラーク青年だった。』
武田康男「すごい空の見つけかた」『書店に行けば空の写真集はたくさんあるが、この著者の本以上のものにはなかなかお目にかかれない』『気象予報士の視覚も持つ高校教師の著者がつくる本はいつも、掲げられた写真の見どころが何であるのか明快に伝えてくれる。だから次の瞬間から自分でも空を見上げ、「すごい空」を探すことができる。理想的な科学の本だ。』
日高敏隆「春の数えかた」『いきものたちはいったいどうやって春の到来を知るのだろう?』『本書を読み進めると、ぼくたちは何度も驚きの声を上げることになる。あっ、そうか、それも世界のふしぎなんだ!』『日高さんは常にいきものたちの視点から世界を捉え直してみせる。ぼくたちはヒトという視点に縛られているけれど、いきものにはいきものの論理があるのだ。』
リチャード・プレストン「世界一高い木」『彼はマリーという女性と出会い、巨木ゼウスの上でプロポーズし、気の上で結婚式を挙げる。』『鳥は木の上にいる人間を警戒しない。プレストンさんの目の前に鳥が降り立ち、すぐそばを群れが枝をかすめるように飛んでゆく。』『スティーヴたちが登ったセコイアの超常には、なんと川にいるはずのプランクトンや、山椒魚や新種のミミズまでが棲んでいたのだ。』
佐藤克文「ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ ハイテク海洋動物学への招待」『水中では電波が届かないので無線通信は難しい。だから後でロガーは自分で回収しなくてはならない。南極の平原を埋め尽くすようにして立つペンギンの群れから、佐藤さんは自分のペンギンを探すのだ。』
鈴木忠+森山和道「クマムシを飼うには 博物学から始めるクマムシ研究」『「先生のお話を伺って、たぶん僕はこれから、コケを見るたびに「この中にクマムシがいるのかな?」とか思うようになる」と森山さんがつぶやき、鈴木さんが嬉しそうに応じる。』
青山潤「アフリカにょろり旅」『いきなりこの本は、ひとりの黒人青年が周囲の人からボコボコにされているシーンから始まる。』『ウナギが海で産卵する瞬間を見た人はいない、といったらびっくりするかもしれない。』
小松義夫「ぼくの家は「世界遺産」」『家とは周囲に広がる大自然の環境とぼくたち家族の境界につくられるとびきりすてきな「遺産」なんだ、と読んでいて実感してくる。』
コンラート・ローレンツ「ソロモンの指輪 動物行動学入門」『もしあなたが動物好きで、科学が好きなら、一生のうちに必ずコンラート・ローレンツさんの本を手に取るはずだ。いまは読まなくても、きっと将来、魅了され感動する。だから今回の書評はそんなきみの未来に向けて書こう。』
新井紀子「ハッピーになれる算数」『何かに没頭しているとき、人間の脳はもっとも自由になるそうだ。つまりルールを味方につけて難問に挑戦するとき、ぼくたちは好きな音楽や本に没頭している瞬間と同じく、自由なんだ。』
足立恒雄(文)+上村奈央(絵)「「無限」の考察」『これは数学の本だが、世界を見るぼくたち自身のあいまいさを根本から捉え直す驚異の本でもある。』『「無限」と聞くと、とても神秘的でふしぎな感じがしないだろうか?しかしそのふしぎな感じは、ぼくたちが「無限」の定義をあいまいにしたまま漠然とイメージしているからdと著者の足立恒雄さんは教えてくれる。』『ああ、そうか、本当の自由は数学にあるんだ!と気づく人も出てくるかもしれない。』
ロバート・P・クリース「世界でもっとも美しい10の科学実験」『最後にクリースさんは問う。「もし実験に美があるなら、それは美にとって何を意味するのだろうか?」』
ミチオ・カク「パラレルワールド 11次元の宇宙から超空間へ」『でもミチオの本は他のどんな宇宙論の本よりもわかりやすく、ていねいで、胸踊るのだから、思い切って飛び込んでみるのがいい。』
戸塚洋二「戸塚教授の「科学入門」 E=mc2は美しい!」『宇宙はわかるよといい切ってしまったらおもしろくない。想像もつかなかったものを実験で発見するのが科学の醍醐味、と最後に戸塚さんはいう。なんてすてきな言葉だろう。その遺志を継ぐのはぼくたち読者だ。』
武田康男「世界一空が美しい大陸 南極の図鑑」『武田康男さんはぼくのいちばん好きな空の写真家だ。武田さんの写真集は科学の本でもあって、読んだ瞬間からぼくたちの世界の見方を変える。』『人間たちも部屋に鍵をかけない。そんな世界がこの地球上にあるのです、という一文に、ぼくは心を打たれたのだった。』
生化学若い研究者の会「光クラゲがノーベル賞をとった理由 蛍光タンパク質GFPの発見物語」『一方で著者らは、研究に貢献しながらノーベル賞を受賞できずバスの運転手になったダグラス・プラッシャー博士へのまなざしも忘れない。』『10年後、皆さんもこのような本がきっと書ける。本書を読んで科学のおもしろさに目ざめたら、今度はあなたが伝える番だ。』
百島祐貴「ペニシリンはクシャミが生んだ大発見 医学おもしろ物語25話」『未来をつくることが、目の前のひとりのいのちを救う。医学のすてきな力だ。』
ピーター・ジェイムズ+ニック・ソープ「古代文明の謎はどこまで解けたか ⅠⅡⅢ」『本書は考古学者とジャーナリストのふたりが、誰でも聞いたことのある魅惑的な歴史の謎を次々に遡上に上げ、ウソとホントの言説をきちんと区別し、トンデモ学説を切り捨てながら、自ら魅力的な仮説を展開してみる労作だ。』
ピーター・アトキンス「ガリレオの指 現代科学を動かす10大理論」『フィレンツェ科学史博物館には、ガリレオの亡骸から切り取られた右手の中指が展示されている。ガリレオの実験観察の技法は科学観の一大転換をもたらした。彼の指先は「化学的手法」が真理を掘り起こしてゆくさまの象徴であり、身体は儚くとも知識は永遠であることの象徴でもある。』
スティーヴン・ストロガッツ「SYNC なぜ自然はシンクロしたがるのか」『「今この時代に科学者であることが、どれほどワクワクすることかを実感していただけただろうか?」という結びの一言に、あなたも心を打たれるはずだ。』
イーヴァル・エクランド「数学は最善世界の夢を見るか? 最小作用の原理から最適化理論へ」『最後に作者がたどり着くのは私たちの合理的な意思と勇気だ。泣きはしないが、胸に迫るものがあった。』『あなたは想う、もし10年前に本書が邦訳されていたら日本のSFは少しは変わっただろう。だがあなたがこれから見る夢は、確かに未来のSFを変えるのだ。』
ロボ鉄取材班「ロボ鉄」『この「ロボ鉄」は、これからロボットの鉄人になろうとする人たちへの、熱いエールだ。いま各地のロボコンで活躍している高校生や大学生が次々と登場して、アイデア帳の中身や設計図を見せてくれる。これを眺めたら誰だってロボットをつくりたくなるだろう。』『勉強とロボットの両立で大切なのは、「凝る」ことではなく「簡単なものを確実に仕上げる」こと。』
名和小太郎「エジソン 理系の想像力」『この本を読んで、エジソンに対する印象が変わった。エジソンの真の想像力とは、たくさんの発明をまとめあげて、社会へつなげてゆくことの想像力だったのだ、とこの本はいう。』『ものをつくるのが好きな人なら誰でも、自分の発明で世の中をよくしたいと夢を描くだろう。でも白熱灯ひとつを発明したからといって、すぐに社会が変わるわけではない。ではどうすればいいんだろう。ものづくりのシステムと、社会のシステムを考え抜く必要がある。』『理系の想像力は、社会をどのように変えてゆけるのか。』
藤森照信「人類と建築の歴史」『そして著者は「建築探偵」の異名を持つ藤森照信さん。ミステリー小説を読むような気持ちでページをめくろう。』
P・W・シンガー「ロボット兵士の戦争」『日本ではロボットを友だちとして論ずることが多い。だが本書を読むことで、ぼくらとは大きく異なるロボットへの価値観が、海の向こうの国に存在していることがわかる。』
山根一眞「小惑星探査機はやぶさの大冒険」『はやぶさの情報はインターネット上に溢れすぎているからあえてわかりやすく書いたという、山根さんの手さばきも堪能してほしい。』
リチャード・モラン「処刑電流 エジソン、電流戦争と電気椅子の発明」『いかがわしさと科学が同居した電気椅子。本書はこのいかにもアメリカ的な発明が、エジソンとウェスティングハウスというふたりの発明家の確執から生まれた事実を語ってスリリングだ。』
石黒浩「ロボットとは何か 人の心を映す鏡」『だがロボットを人間そっくりにすればするほど、私たちはいまだ人間の本質に遠く及ばぬ認知コミュニケーション問題しか炙り出せ無いのだと感じてしまう。本書はその限界を超えようともがき、挑戦し続ける工学者の、未来への果敢な一歩である。』
浅田稔「ロボットという思想 脳と知能の謎に挑む」『しかしそれでもなお、ロボットはあまりにも自由な存在だ。自由であるがゆえに想像力の限界が試される。ロボットを人間に近づけようとすればするほど、ロボットは人間から遠ざかってゆく。』
最相葉月「星新一 1001話をつくった人」『でもノンフィクションは難しそう、読みたくもないって?いまそう想うなら読まなくてもいい。でもこの最相さんが書いた星新一の伝記は、どこか目に見えるところに置いていてほしいんだ。』
ジャン=クロード・カリエール「教えて!!Mr.アインシュタイン」『タイムマシンに乗って過去へ行き、有名人に会って思う存分に話を聞いてみたい、と夢想したことはないだろうか。本書はまさにそんな思いを募らせた作家が書いた小説だ。』
キャサリン・パターソン「星をまく人」『ぼくたちの体は、夜空で光る星と同じ材料でできている。この事実がエンジェルにひとつの希望を与える。彼女はいつも北の空で動かない北極星を仰ぎ、自分もしっかり明るく輝いてゆこうと決意する。』『星はただ輝くだけだ。しかしそれを見て心を動かすのは、誰もが持つ普遍の力なのだと本書は伝えている。』
ジョディ・ピコー「私の中のあなた」『深くあなたの心に突き刺さり、医療の本質と、そして生きることの意味について生涯考えさせる科学の本でもある。考え続けること、それは科学のいちばん大切なことなのだ。』『アナたちの母親であるサラが、ケイトの難病に向き合い、アナを産み、育ててゆくまでの人生を丹念に綴ったパートは、皆さんが親になったとき改めて心に響くだろう。』
バーナード・ベケット「創世の島」『対話だけで進む本書は、実は優れて映像的な物語だ。読めばあなたの脳内でイメージが爆発する。』
ロアルド・ダール「一年中わくわくしてた」『ロアルド・ダールはふしぎな作家だ。ぼくの場合、「チョコレート工場の秘密」(評論社)の作者というよりも、まずは大人向けのミステリアスな短編小説の書き手であり、中学生のことから新しい読書の世界に入る際の入門書であった。』『ああ、もっと本を読みたい、と思う瞬間だ。』
藤子・F・不二雄「大長編ドラえもん のび太と鉄人兵団」『「他人を思いやるあたたかい心…」博士が改造を決意するときの台詞だ。ぼくは、この言葉にならないテンテンテンに、藤子先生の願いと希望と感じる。』
小松左京「小松左京の大震災‘95 この私たちの体験を風化させないために」『これから私たちは小松さんが阪神・淡路大震災後に生きた一年間を生きることになる。』
ちょっとやりすぎたかもしれない、と思いつつ、とりあえずここまで書けて満足。疲れた。
個人的には、これも科学書の括りで紹介してくれるんだ、って本が結構あって面白かった。「アフリカにょろり旅」とか「夜中に犬に起こった奇妙な事件」なんかは、普通では科学書の中には入らない一般向けの本で、こういうのもしっかりちゃんと組み込まれているのがいい。なにせ、ドラえもんの作品が二つも入ってますからね。
本書の書評を読んで読みたくなった本をカウントしてみたら、64冊もあった。無理!!でも、ちょっとずつでも読んでみたい。自分の生きている範囲内では絶対に出会うことはないだろうって本もいくつも挙げられていて、いつかどこかで出会った時は間違いなく買ってしまうだろう。思ったより、僕が読んでいた作品は少なかった。結構科学書読んでるんですけど、やっぱりまだまだ奥は深いですなぁ!
最後に。著者はとある書評の中でこんな風に書いている。
『それにしても本書の訳者・矢野真千子が手がけた本にはハズレがない。もはや信頼のブランドである』
外国人作家の小説でも同じようなことがありますよね。訳者で選ぶ。僕はこの矢野真千子さんって人を知らなかったので、覚えておこうと思いました。僕が信頼している訳者さんは、青木薫さんという方で、この方が訳している作品はほぼ無条件で信頼するようにしています。
今年、是非手にとって読んでみて欲しい作品です。いや、どうせなら、今は読まなくてもいい。でも、著者がどこかの書評で書いていたように、本書をいつも目に見えるところに置いていて欲しい。そう思える作品です。「はじめに」でも書かれていたけど、本書に収録されているかどうかが重要なのではありません。あなたが未来に手に取るかもしれない本、その本に興味を持つことが出来るようにアンテナを張っておく、そのための作品でもあります。科学書の書評集だから、というのではなくて、書評集として素晴らしい作品だと感じました。是非読んでみてください。
瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚」
先に書いておきます。今回の感想は、引用だらけになります。とにかく、引用したくなるような素晴らしい文章に満ち満ちた作品なんです!
本書は、いわゆる書評集です。しかも、大なり小なり『科学』というものと関わる本についての書評集です。
ここまで読んだ時点で、あっ私には関係ないや、と思った方。もう少し僕とお付き合いくださいませ。
まず、「はじめに」で書かれている文章が素晴らしい。引用を織り交ぜつつ、著者がどんな想いで科学に関する本の書評を書いているのか、本書を通じて何が伝わってほしいのか、ということを書いていこうと思います。
まず著者は、本書を三人の読者へ届けたい、と書いています。その三人とは、『これから進路を決めようとしている中学生や高校生』『いま社会で働きながら、読書の愉しみとともにあるあなた』『私の父』です。
中高生については置いておいて、社会人に対しては、『そうしたあなたと科学書の話ができたらと願ってこの本をつくりました』、自身の父については、『学術に専念した人生を送ったからこそ、ピュアな好奇心がその先にある。そうした父に楽しんでもらいたいと願い、私はこの本をつくりました』と書きます。
中高生に対しては、こんな素敵な文章を届ける。
『本書があなたに伝えたいのは、科学実験が好きで読書が好きな人生ってすばらしいじゃないか、ということなのです。あなたは理系に進んでも小説好きでいられるし、文系に進んでも科学を楽しむことができる。そして未来をいま真剣に考えているあなたは、おそらく自分が将来どのように社会に貢献できるかと悩んでいることでしょう。科学の本を読むということは、そうした悩みに向き合いm未来を考えてゆくことでもあるのだと伝えたい。』
その後著者は、「科学の本を読むというのは、一体どういうことなのか」と問い、それに答える。僕は元々理系で、科学的な事柄に凄く興味があったので、自発的に科学の本を読んできた。しかし、そうではない人たちにとって、科学の本というのはハードルが高い、というのも凄く想像出来る。僕は歴史が苦手なのだけど、そんな僕が、なんの情報もないままとりあえず歴史の本を選んで読んでみろ、と言われるようなものだろう。
著者は、科学の本を読むということは、ちょっと違った体験をもたらす、と書いています。
『もとの生活に還るための、日常を取り戻すための本と違い、本書に登場する科学書の多くは、むしろ読むとあなたに新たな疑問や謎を残すでしょう。本のページを閉じた後、世界はもとに戻るのではなく、むしろ変化して見えるでしょう。世界があなた自身にチューニングされるのではなく、いままで少しばかり社会のしがらみにとらわれていたあながた、本来の宇宙に調律される、それが科学の本を読むということなのだと思います。』
『そうした豊かで複雑な私達の心のあり方が、宗教観も生活習慣も違う異国の人々に想いを馳せ、見ることさえできないはるかな宇宙のイメージに胸踊らせる、人間ならではの読書の歓びを産み出すのです。』
『自由を求めて社会を変えることを革命と呼びますが、科学の本を読むことは、ささやかな娯楽であると同時に小さな革命なのだと思います。この世界を、宇宙を見るために、自分が少しだけ変わるのですから。』
そうした、科学書を読むことの素晴らしさを伝えたあとで、著者は、科学の本を読む歳のコツやスタンスを教えてくれる。特にそれまで科学的な本と触れて来なかった人には、科学の本とどう向き合ったらいいか悩むことだろう。僕だって、歴史の本をどう読みどう捉えたらいいのか、誰かに手助けしてもらえなければ、ちょっと辛いかもしれない。
『科学の本を読むときも、だから周りの声なんか忘れて、自分ひとりで向きあうのがいいのです。読後の感想をブログやソーシャルサービスに書いている人も、「的外れなことをいって笑われたらどうしよう」と周囲を気にする必要なんてない。』
『ひとつだけ科学の本を愉しむコツがあるならば、類似した分野の書物をいくつか謙虚に読んでみることでしょう。ちょうど小説の分野を開拓するときのように。』
そして最後に著者は、本書をどんな風に捉えて欲しいのか、という自らの希望を書く。本書は、「科学書の書評をし、その本に興味を持ってもらうこと」だけを目的に書かれているのではない。
『本書は書評を集めた本ですが、本当のことをいえば、ここに掲載した書物が大切なのではありません。未来にああなたがきっと手に取るであろう、いまは世に出ていない科学の本のために、この書評集をつくりました。』
『私たちにとって科学のホントはどのようなものであり、それを読むとはどのような愉しみであるのか。読むことでどのような未来がつくられるのか。それが本書の主題なのです。どのように科学の本を読むことがおもしろいのかと考えてゆけば、次に新刊書を見つけたとき、「これはおもしろそうだ」とあなた自身のアンテナが働くのではないか。』
どうでしょうか。本書に興味を持ってもらうことは出来たでしょうか?ここまで読んでもらって、それでもやっぱりこの本は自分には関係ないな、と思われたら、まあそれは仕方ありません。諦めます。でも、ここまで読んで、なるほど科学書ってちょっとハードルが高いような気がしてたけど、この本を頼りに読んでみたら面白いかもしれないぞ、と思ってもらえたら嬉しいです。
本書はまさに、新しい世界の扉そのものだと思います。ドアノブこそついていませんが、ページをめくることで、鍵なんかなくたって、あなたはそれまで知らなかった芳醇な世界へと旅立つことができます。それまで自分の身近に科学書がなかった人にこそ、この本をまず手にとって欲しい。本当にそう思います。
というわけで以下、『書評の中にキラリと光言葉があった』本について、その文章の引用と共に書いてみようと思っています。僕が既に読んでいるかどうか(読んでいる本も多少ありました)、あるいはその本を読みたくなったかどうか、ということとは関係なしに、純粋に、書評の中の文章に惹かれたかどうか、という基準で選びます。かなり多くなると思いますけど、気が向いたら読んでみてください。
「ぼくドラえもん」増刊「もっと!ドラえもん 5」『「のび太と恐竜」に感動した皆さんのなかから、未来の恐竜学者が生まれるだろう。それが物語の力と科学の夢なんだと僕は思う。』
ジョン・ブロックマン「キュリアス・マインド ぼくらが科学者になったわけ」『だがここで本当に重要なのは、登場する27人全員がずっと何かに興味を持ち続け、ふしぎだ、おもしろい、と思う自分の気持ちを大切にし続けてきたことだ。それなら誰もが今日からできることだ。』
森博嗣「森博嗣の半熟セミナ 博士、質問があります!」『だから愛らしいこの本に関しては、少し変わった活用法を提案したい。まずは誰かに森さんの設定した質問テーマだけを書きだしてもらう。そして「自分ならこの質問にどう答えるだろう?」と考えてみるのだ。』
星新一「人民は弱し 官吏は強し」『この本のすごみが身に染みるようになったのは、ぼくが大学で薬学を学んでからだ。10代のときに読んでいてよかったと心から感じた。ぼくが薬学をいまも心の故郷にしているのは本書の影響だろう。』『いまは難しいと感じてもいい。どうかこの本を大切に置いていてほしい。いつかきみが本当に科学をめざすとき、この本はかけがえのない宝となるはずだ。』
森博嗣「創るセンス 工作の思考」『森のノンフィクションには常に真っ当、当たり前なことが書かれている。だが工学分野で類似の書き手が少ないため、相対的にエキセントリックに見えるに過ぎない。』『工作とは基本的に不可逆な好意であり、必ず部分的な破壊を伴う。』『理科離れ対策は、まず大人がものづくりを楽しむことだという主張は見事に真っ当である。』
前田知洋「人を動かす秘密のことば なぜあの人は心をつかむのが上手いのか」『ぼくも趣味でカーdkマジックを練習することがあるけれど、誰かに演じるときは技術よりコミュニケーションが大事だということが実感できる。』
玉井真理子「遺伝医療とこころのケア 臨床心理士として」『現代社会において生命の意味を考えることは、背負っている思い荷物を腰をかがめてもう一度背負い直すことだそうだ。ならば荷物の重さを感じる感受性を失わないこと、腰をかがめるのをいとわないこと。』
A・R・ルリヤ「偉大な記憶力の物語 ある記憶術者の精神生活」『ルリヤさんはシィーを通して、人が言葉を、世界を認識するとはどういうことかという、大切な問題を投げかけてくる。』
スティーブン・ジョンソン「マインド・ワイド・オープン 自らの脳を覗く」『閃きの瞬間、脳内で何が起こっているのか。およそ創造的な仕事についている人なら一度は考えたことがあるはずだが、本書の著者は自分を被験者にしてこの難問に挑戦する。』
中村徳子「赤ちゃんがヒトになるとき ヒトとチンパンジーの比較発達心理学」『ヒトでもチンパンジーでも赤ちゃんにとって愛着相手とは、常に世界へ好奇心を掻き立てる窓口であり、また情緒的に混乱したとき自分を回復させる拠りどころなのだ。』
ビル・マッキベン「人間の終焉 テクノロジーはもう十分だ!」『遺伝子工学やナノテクノロジー、ロボット学などの技術がこのまま進んでいったとき、いずれ私たちは自分の子どもをデザインする誘惑に駆られるようになるだろう。』
下條信輔「サブリミナル・インパクト 情動と潜在認知の現代」『コカ・コーラはあらかじめブランド名を知って飲むと脳のある部分が活動するのに、ペプシだとさほど反応しない。ペプシは脳科学的にもブランド戦略に失敗している』
池谷裕二「単純な脳、複雑な「私」」『本書の書評のため初期の著作から刊行順に彼の足跡を一気に読んでたどり、そうだよ、研究者はいつだってこうやって一人の人間として歩んでゆくんじゃないか、と心のなかでうなずいた。』
ダン・ガードナー「リスクにあなたは騙される 「恐怖」を操る論理」『理性に基づき、客観的に情報と向き合う「頭」だけでリスクが判断できれば苦労はしない。人は主観的な「腹」の感情に振り回される。』
吉川肇子+矢守克也「クロスロード・ネクスト 続:ゲームで学ぶリクス・コミュニケーション」『神戸市の職員有志はこのゲームを通じて若い職員へ震災の記憶を伝えた。』
新妻昭夫(文)+杉田比呂美(絵)「ダーウィンのミミズの研究」『興味を持った新妻さんは、ダーウィンの仕事を調べ始める。この絵本「ダーウィンのミミズの研究」をめくれば、ダーウィンの熱意が新妻さんに乗り移ったことがわかるだろう。』
クリスタン・ローソン「ダーウィンと進化論 その生涯と思想をたどる」『科学の発見はその時代とかたく結びついている。歴史や社会が科学とつながるという事実に驚くかもしれない。でもこれが本当の科学への第一歩だ。』
シャロン・モアレム+ジョナサン・プリンス「迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか」『なぜぼくたちは体によくない遺伝子を受け継いでいるんだろう?迷惑な遺伝子も実は人類進化の過程で重要な意味を持っていたのでは?』
ジョナサン・マークス「98%チンパンジー 分子人類学から見た現代遺伝学」『「人間の本性は人間にできることの範囲にすぎない」と著者は明快にいう。だが私たちは自分と他人の範囲の差ではなく、絶対的な違いとして捉えてしまうものだ。その境界に起ち現れるさまざまな差別や摩擦に、私たちはどう向かってゆけばよいのか。』『科学は物事の見方である。あなたたちの考え方は科学的に間違っているということはたやすいが、それもまたひとつの自民族中心主義なのではないかと著者は指摘する。』
カール・ジンマー「「進化」大全 ダーウィン思想:史上最大の科学革命」『長い休暇が取れたら本書を持って都会を離れ、くつろぎながら何度も読み返してみたい。自分の内にあったナチュラリストの精神が、きっと蘇ってくるだろう。』
ピーター・D・ウォード「恐竜はなぜ鳥に進化したのか 絶滅も進化も酸素濃度が決めた」『本書は恐竜が鳥に進化した理由だけを書いた本ではない。』
長谷川善和「フタバスズキリュウ発掘物語 8000万年の時を経て蘇ったクビナガリュウ」『後にフタバスズキリュウと名づけられたこの化石はブームを起こし、藤子・F・不二雄のマンガ「のび太の恐竜」のモチーフともなった。(中略)本書は「のび太の恐竜」に一度も言及しない。』
八代嘉美「iPS細胞 世紀の発見が医療を変える」『何よりすばらしいのは、ES細胞やiPS細胞を学ぶことは医療の未来を開くばかりではなく、生命の根源を探求することであり、それはわくわくすることなのだというスタンスに貫かれていることだ。類書にない大きな特長である。』
カール・ジンマー「大腸菌 進化のカギを握るミクロな生命体」『大腸菌(E・コリ)を語ることはすなわち遺伝子研究の歴史を語ることだ。(中略)大腸菌を主役に据えて遺伝子研究の勃興期から黄金時代までを語ってみせる。』
武田康男「楽しい気象観察図鑑」『こんなにクオリティの高い写真集をまとめるまで、いったいどれほど長い時間、著者の武田康男さんは空を見続けてきたのだろう。』『この本がすばらしいのは、美しい写真を眺めることで減少が理解できることだ。その瞬間から世界が鮮やかに生まれ変わる。』
リチャード・ノートン「隕石コレクター 鉱物学、隕石学、天文学が解き明かす「宇宙からの石」」『本書を読んでいると隕石の手触りさえ想像できる。』『この本が見事なのは、隕石について読むことで、生命や地球、宇宙の謎まで視野が広がってゆくことだ。』
サイモン・シン「宇宙創成」『著者のサイモン・シンさんは謝った理論を唱えた人を決して避難しないが、アインシュタインさえも英雄として書かない。そこがすばらしい。すべての科学者がいきいきとしている。』
アーサー・C・クラーク「楽園の日々 アーサー・C・クラークの回想」『人工衛星を使えば世界中にテレビ中継できるというアイデアを1945年に初めて発表したのは、後に宇宙科学の解説者として頭角を現すことになる28歳のアーサー・C・クラーク青年だった。』
武田康男「すごい空の見つけかた」『書店に行けば空の写真集はたくさんあるが、この著者の本以上のものにはなかなかお目にかかれない』『気象予報士の視覚も持つ高校教師の著者がつくる本はいつも、掲げられた写真の見どころが何であるのか明快に伝えてくれる。だから次の瞬間から自分でも空を見上げ、「すごい空」を探すことができる。理想的な科学の本だ。』
日高敏隆「春の数えかた」『いきものたちはいったいどうやって春の到来を知るのだろう?』『本書を読み進めると、ぼくたちは何度も驚きの声を上げることになる。あっ、そうか、それも世界のふしぎなんだ!』『日高さんは常にいきものたちの視点から世界を捉え直してみせる。ぼくたちはヒトという視点に縛られているけれど、いきものにはいきものの論理があるのだ。』
リチャード・プレストン「世界一高い木」『彼はマリーという女性と出会い、巨木ゼウスの上でプロポーズし、気の上で結婚式を挙げる。』『鳥は木の上にいる人間を警戒しない。プレストンさんの目の前に鳥が降り立ち、すぐそばを群れが枝をかすめるように飛んでゆく。』『スティーヴたちが登ったセコイアの超常には、なんと川にいるはずのプランクトンや、山椒魚や新種のミミズまでが棲んでいたのだ。』
佐藤克文「ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ ハイテク海洋動物学への招待」『水中では電波が届かないので無線通信は難しい。だから後でロガーは自分で回収しなくてはならない。南極の平原を埋め尽くすようにして立つペンギンの群れから、佐藤さんは自分のペンギンを探すのだ。』
鈴木忠+森山和道「クマムシを飼うには 博物学から始めるクマムシ研究」『「先生のお話を伺って、たぶん僕はこれから、コケを見るたびに「この中にクマムシがいるのかな?」とか思うようになる」と森山さんがつぶやき、鈴木さんが嬉しそうに応じる。』
青山潤「アフリカにょろり旅」『いきなりこの本は、ひとりの黒人青年が周囲の人からボコボコにされているシーンから始まる。』『ウナギが海で産卵する瞬間を見た人はいない、といったらびっくりするかもしれない。』
小松義夫「ぼくの家は「世界遺産」」『家とは周囲に広がる大自然の環境とぼくたち家族の境界につくられるとびきりすてきな「遺産」なんだ、と読んでいて実感してくる。』
コンラート・ローレンツ「ソロモンの指輪 動物行動学入門」『もしあなたが動物好きで、科学が好きなら、一生のうちに必ずコンラート・ローレンツさんの本を手に取るはずだ。いまは読まなくても、きっと将来、魅了され感動する。だから今回の書評はそんなきみの未来に向けて書こう。』
新井紀子「ハッピーになれる算数」『何かに没頭しているとき、人間の脳はもっとも自由になるそうだ。つまりルールを味方につけて難問に挑戦するとき、ぼくたちは好きな音楽や本に没頭している瞬間と同じく、自由なんだ。』
足立恒雄(文)+上村奈央(絵)「「無限」の考察」『これは数学の本だが、世界を見るぼくたち自身のあいまいさを根本から捉え直す驚異の本でもある。』『「無限」と聞くと、とても神秘的でふしぎな感じがしないだろうか?しかしそのふしぎな感じは、ぼくたちが「無限」の定義をあいまいにしたまま漠然とイメージしているからdと著者の足立恒雄さんは教えてくれる。』『ああ、そうか、本当の自由は数学にあるんだ!と気づく人も出てくるかもしれない。』
ロバート・P・クリース「世界でもっとも美しい10の科学実験」『最後にクリースさんは問う。「もし実験に美があるなら、それは美にとって何を意味するのだろうか?」』
ミチオ・カク「パラレルワールド 11次元の宇宙から超空間へ」『でもミチオの本は他のどんな宇宙論の本よりもわかりやすく、ていねいで、胸踊るのだから、思い切って飛び込んでみるのがいい。』
戸塚洋二「戸塚教授の「科学入門」 E=mc2は美しい!」『宇宙はわかるよといい切ってしまったらおもしろくない。想像もつかなかったものを実験で発見するのが科学の醍醐味、と最後に戸塚さんはいう。なんてすてきな言葉だろう。その遺志を継ぐのはぼくたち読者だ。』
武田康男「世界一空が美しい大陸 南極の図鑑」『武田康男さんはぼくのいちばん好きな空の写真家だ。武田さんの写真集は科学の本でもあって、読んだ瞬間からぼくたちの世界の見方を変える。』『人間たちも部屋に鍵をかけない。そんな世界がこの地球上にあるのです、という一文に、ぼくは心を打たれたのだった。』
生化学若い研究者の会「光クラゲがノーベル賞をとった理由 蛍光タンパク質GFPの発見物語」『一方で著者らは、研究に貢献しながらノーベル賞を受賞できずバスの運転手になったダグラス・プラッシャー博士へのまなざしも忘れない。』『10年後、皆さんもこのような本がきっと書ける。本書を読んで科学のおもしろさに目ざめたら、今度はあなたが伝える番だ。』
百島祐貴「ペニシリンはクシャミが生んだ大発見 医学おもしろ物語25話」『未来をつくることが、目の前のひとりのいのちを救う。医学のすてきな力だ。』
ピーター・ジェイムズ+ニック・ソープ「古代文明の謎はどこまで解けたか ⅠⅡⅢ」『本書は考古学者とジャーナリストのふたりが、誰でも聞いたことのある魅惑的な歴史の謎を次々に遡上に上げ、ウソとホントの言説をきちんと区別し、トンデモ学説を切り捨てながら、自ら魅力的な仮説を展開してみる労作だ。』
ピーター・アトキンス「ガリレオの指 現代科学を動かす10大理論」『フィレンツェ科学史博物館には、ガリレオの亡骸から切り取られた右手の中指が展示されている。ガリレオの実験観察の技法は科学観の一大転換をもたらした。彼の指先は「化学的手法」が真理を掘り起こしてゆくさまの象徴であり、身体は儚くとも知識は永遠であることの象徴でもある。』
スティーヴン・ストロガッツ「SYNC なぜ自然はシンクロしたがるのか」『「今この時代に科学者であることが、どれほどワクワクすることかを実感していただけただろうか?」という結びの一言に、あなたも心を打たれるはずだ。』
イーヴァル・エクランド「数学は最善世界の夢を見るか? 最小作用の原理から最適化理論へ」『最後に作者がたどり着くのは私たちの合理的な意思と勇気だ。泣きはしないが、胸に迫るものがあった。』『あなたは想う、もし10年前に本書が邦訳されていたら日本のSFは少しは変わっただろう。だがあなたがこれから見る夢は、確かに未来のSFを変えるのだ。』
ロボ鉄取材班「ロボ鉄」『この「ロボ鉄」は、これからロボットの鉄人になろうとする人たちへの、熱いエールだ。いま各地のロボコンで活躍している高校生や大学生が次々と登場して、アイデア帳の中身や設計図を見せてくれる。これを眺めたら誰だってロボットをつくりたくなるだろう。』『勉強とロボットの両立で大切なのは、「凝る」ことではなく「簡単なものを確実に仕上げる」こと。』
名和小太郎「エジソン 理系の想像力」『この本を読んで、エジソンに対する印象が変わった。エジソンの真の想像力とは、たくさんの発明をまとめあげて、社会へつなげてゆくことの想像力だったのだ、とこの本はいう。』『ものをつくるのが好きな人なら誰でも、自分の発明で世の中をよくしたいと夢を描くだろう。でも白熱灯ひとつを発明したからといって、すぐに社会が変わるわけではない。ではどうすればいいんだろう。ものづくりのシステムと、社会のシステムを考え抜く必要がある。』『理系の想像力は、社会をどのように変えてゆけるのか。』
藤森照信「人類と建築の歴史」『そして著者は「建築探偵」の異名を持つ藤森照信さん。ミステリー小説を読むような気持ちでページをめくろう。』
P・W・シンガー「ロボット兵士の戦争」『日本ではロボットを友だちとして論ずることが多い。だが本書を読むことで、ぼくらとは大きく異なるロボットへの価値観が、海の向こうの国に存在していることがわかる。』
山根一眞「小惑星探査機はやぶさの大冒険」『はやぶさの情報はインターネット上に溢れすぎているからあえてわかりやすく書いたという、山根さんの手さばきも堪能してほしい。』
リチャード・モラン「処刑電流 エジソン、電流戦争と電気椅子の発明」『いかがわしさと科学が同居した電気椅子。本書はこのいかにもアメリカ的な発明が、エジソンとウェスティングハウスというふたりの発明家の確執から生まれた事実を語ってスリリングだ。』
石黒浩「ロボットとは何か 人の心を映す鏡」『だがロボットを人間そっくりにすればするほど、私たちはいまだ人間の本質に遠く及ばぬ認知コミュニケーション問題しか炙り出せ無いのだと感じてしまう。本書はその限界を超えようともがき、挑戦し続ける工学者の、未来への果敢な一歩である。』
浅田稔「ロボットという思想 脳と知能の謎に挑む」『しかしそれでもなお、ロボットはあまりにも自由な存在だ。自由であるがゆえに想像力の限界が試される。ロボットを人間に近づけようとすればするほど、ロボットは人間から遠ざかってゆく。』
最相葉月「星新一 1001話をつくった人」『でもノンフィクションは難しそう、読みたくもないって?いまそう想うなら読まなくてもいい。でもこの最相さんが書いた星新一の伝記は、どこか目に見えるところに置いていてほしいんだ。』
ジャン=クロード・カリエール「教えて!!Mr.アインシュタイン」『タイムマシンに乗って過去へ行き、有名人に会って思う存分に話を聞いてみたい、と夢想したことはないだろうか。本書はまさにそんな思いを募らせた作家が書いた小説だ。』
キャサリン・パターソン「星をまく人」『ぼくたちの体は、夜空で光る星と同じ材料でできている。この事実がエンジェルにひとつの希望を与える。彼女はいつも北の空で動かない北極星を仰ぎ、自分もしっかり明るく輝いてゆこうと決意する。』『星はただ輝くだけだ。しかしそれを見て心を動かすのは、誰もが持つ普遍の力なのだと本書は伝えている。』
ジョディ・ピコー「私の中のあなた」『深くあなたの心に突き刺さり、医療の本質と、そして生きることの意味について生涯考えさせる科学の本でもある。考え続けること、それは科学のいちばん大切なことなのだ。』『アナたちの母親であるサラが、ケイトの難病に向き合い、アナを産み、育ててゆくまでの人生を丹念に綴ったパートは、皆さんが親になったとき改めて心に響くだろう。』
バーナード・ベケット「創世の島」『対話だけで進む本書は、実は優れて映像的な物語だ。読めばあなたの脳内でイメージが爆発する。』
ロアルド・ダール「一年中わくわくしてた」『ロアルド・ダールはふしぎな作家だ。ぼくの場合、「チョコレート工場の秘密」(評論社)の作者というよりも、まずは大人向けのミステリアスな短編小説の書き手であり、中学生のことから新しい読書の世界に入る際の入門書であった。』『ああ、もっと本を読みたい、と思う瞬間だ。』
藤子・F・不二雄「大長編ドラえもん のび太と鉄人兵団」『「他人を思いやるあたたかい心…」博士が改造を決意するときの台詞だ。ぼくは、この言葉にならないテンテンテンに、藤子先生の願いと希望と感じる。』
小松左京「小松左京の大震災‘95 この私たちの体験を風化させないために」『これから私たちは小松さんが阪神・淡路大震災後に生きた一年間を生きることになる。』
ちょっとやりすぎたかもしれない、と思いつつ、とりあえずここまで書けて満足。疲れた。
個人的には、これも科学書の括りで紹介してくれるんだ、って本が結構あって面白かった。「アフリカにょろり旅」とか「夜中に犬に起こった奇妙な事件」なんかは、普通では科学書の中には入らない一般向けの本で、こういうのもしっかりちゃんと組み込まれているのがいい。なにせ、ドラえもんの作品が二つも入ってますからね。
本書の書評を読んで読みたくなった本をカウントしてみたら、64冊もあった。無理!!でも、ちょっとずつでも読んでみたい。自分の生きている範囲内では絶対に出会うことはないだろうって本もいくつも挙げられていて、いつかどこかで出会った時は間違いなく買ってしまうだろう。思ったより、僕が読んでいた作品は少なかった。結構科学書読んでるんですけど、やっぱりまだまだ奥は深いですなぁ!
最後に。著者はとある書評の中でこんな風に書いている。
『それにしても本書の訳者・矢野真千子が手がけた本にはハズレがない。もはや信頼のブランドである』
外国人作家の小説でも同じようなことがありますよね。訳者で選ぶ。僕はこの矢野真千子さんって人を知らなかったので、覚えておこうと思いました。僕が信頼している訳者さんは、青木薫さんという方で、この方が訳している作品はほぼ無条件で信頼するようにしています。
今年、是非手にとって読んでみて欲しい作品です。いや、どうせなら、今は読まなくてもいい。でも、著者がどこかの書評で書いていたように、本書をいつも目に見えるところに置いていて欲しい。そう思える作品です。「はじめに」でも書かれていたけど、本書に収録されているかどうかが重要なのではありません。あなたが未来に手に取るかもしれない本、その本に興味を持つことが出来るようにアンテナを張っておく、そのための作品でもあります。科学書の書評集だから、というのではなくて、書評集として素晴らしい作品だと感じました。是非読んでみてください。
瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚」
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