黒夜行

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2100年の科学ライフ(ミチオ・カク)

内容に入ろうと思います。
本書は、物理学において秘めたる可能性を持つ理論「ひも理論」の創始者の一人であり、全米で放送されるサイエンス・チャンネルの司会を務め、また一般向けに科学を分かりやすく伝えるサイエンスライターとしても知られる著者による、現在の科学テクノロジーから、100年後の未来を想像する、という内容になっています。
とはいえ、ただの想像ではありません。
本書は、新発見の最前線にいるトップクラスの科学者300人以上へのインタビューに基いて書かれている。そして何よりも、本書で描かれているすべてのテクノロジーのプロトタイプは既に存在している、という点が大きいだろう。本書は、「まだ微塵も可能性が感じられないものを、未来には出来てるんじゃないかな」と楽観的に予測する本ではなく、「現在技術の萌芽はあるが、まだ実用化には至っていない。しかし、100年もあれば、技術的困難さやコストの問題をクリアして、一般に広まっていくのではないか」というものばかりを取り上げているのだ。例えばこういうことだ。もし『紙』というものがまだ発明されていなければ、「未来の世界でいずれ『本』が発明されるだろう」というのは、ただの空想に過ぎない。しかし、『紙』が発明されていれば、「『紙』を束ねて『本』を作れるだろうし、将来的に何らかの技術革新があって、その『本』を大量生産するための仕組み(まあ、つまり印刷技術ってことですけど)が生まれるだろう」というのは、プロトタイプを元にした根拠ある予測といえるのではないだろうか。
本書では、ホントに!?と言いたくなるような様々なテクノロジーが山ほど出てくる。たった100年で、そんなとんでもない未来がやってくるんだろうか、と疑いたくなってしまうようなテクノロジーが次々に紹介されるのだ。
しかし、肝心なことは、それらのプロトタイプは既に存在している、ということである。まだ実験室レベルでしか存在していないものたちばかりだが、世の中に存在するありとあらゆるものは、初めは実験室レベルの存在でしかなかっただろう。いずれそれが、様々なブレイクスルーによって、一般人のところまで普及していく。そう思えれば、本書で描かれていることを、リアルな未来として受け止めることが出来るのではないだろうか。
そしてもう一つ書いておきたいことがある。それは、『100年後を想像することの難しさ』だ。
これは、1900年の人が現在を想像するのと同じようなものだ、と考えれば近いイメージになるだろう。本書の冒頭でも、それについて触れている。
1900年はどんな世界だったのか。ラジオも映画もなく、自動車は登場したばかりで、人びとは100年後も馬に乗っていると考えていた。飛行機もトラクターもなく、多くの人は将来人類が大西洋を渡る飛行船が出来るだろうと予測できていたが、それは気球によるものだと考えていた。
そんな1900年の人から見れば、目の前にいない人と話が出来る機械や部屋を涼しくしたり温めたりする機械は想像も出来ないだろうし、治るはずがない病気が治るという現実にも驚かされることだろう。
僕たちも本書を読む前に、そういう視点に立たなくてはいけない。1900年の人から現在を見た時と同じか、あるいはそれ以上の変化(何故なら、科学の進歩は恐ろしい速度で進んでいるから)が100年後やってくる、と考えるべきだろう。そういう心構えで読まなければ、本書はどうしたって荒唐無稽な代物に思えてしまうだろう。
もちろん、ここに描かれていることが実現するかどうかは分からない。実験室レベルでは成功しても、結局のところ一般の人が望まなければ、それが普及することはないだろう。あるいは、宇宙探査など一般の人が関わることがないものであるが故に、資金が捻出できず頓挫するものも出てくるだろう。それに、現時点でプロトタイプがまだ出来ていなかった何らかの技術が、100年後に花開くかもしれない。だから当然、100年後は本書の通りにはならないだろう。それでも、これだけワクワクさせてくれる未来を見せてくれるのは、非常に面白い。
そんなわけで、本書でどんなアイデアが出てくるのかざっと書いてみようかと思うんだけど、書きすぎても読者の興を削ぐし、あれもこれも書いてたら物凄い分量になってしまうんで、あくまでざっくりと流れを示しつつ、僕が凄く気になったものがあればちょっと詳し目に書く、みたいな感じで行こうかなと思います。
本書は、「コンピュータ」「人工知能」「医療」「ナノテクノロジー」「エネルギー」「宇宙旅行」「富」「人類」という8つのテーマに分かれていて、最後に「2100年のある日」という章があります。それぞれのテーマにおいて、期間を3つに区切って描いていきます。「近未来(現在~2030年)」「世紀の半ば(2030年~2070年)」「遠い未来(2070年~2100年)」という3つです。とはいえ、面倒なので、その辺りの区切りのことにはあまり触れないまま色々書いていこうと思います。

「コンピュータの未来」
コンピュータの未来にとって最も重要なものは、あの有名な「ムーアの法則」だ。「コンピュータの性能は、およそ18ヶ月で倍になる」というアレである。しかし、この「ムーアの法則」には、物理学的な限界が存在する。その代替となるものを見つけられるかで世界の命運が変わるだろうと書かれている。
とはいえ、ムーアの法則はしばらくまだ有効だ。コンピュータ・チップはどんどん安くなり、いずれビニールの包装よりも安くなり、バーコードに取って代わるだろう。
ありとあらゆるものにチップが埋め込まれ、コンピュータからインターネットに接続するというこれまでのやり方ではなく、壁や家具や広告看板などからも瞬時にインターネットに接続できる未来がやってくるだろう。
現在、コンタクトレンズ型の液晶ディスプレイの開発が迫っている。目に装着するだけでインターネットに接続でき、その結果を網膜に映しだしてくれるのだ。
とにかくあらゆるものにチップが埋め込まれ、オンライン化する。持っているもの、身に着けているものすべてがインターネットに接続できるようになる。
思考でコンピュータを動かす、という試みも行われている。実際に身体付随の男性の脳に電極を差し込み、それをインターネットと接続することで、男性が思考だけでカーソルをコントロール出来るようになったという実験がある。夢を録画したり、超小型のMRIによって体内を簡単にスキャンできる日がやってくるかもしれない。

「人工知能の未来」
人工知能の研究は様々に進められているが、まだ人間を模倣するまでには至らない。知能的には昆虫レベルのものしか生み出せていない。ロボットは、パターン認識を苦手とし、常識を持たないことが最大のネックになっている。
ロボットが得意とする仕事をこなすロボットは、近いうちにどんどんと身近な生活の中に入り込んでいくだろう。しかし、人間のようなロボットを生み出すのにはまだまだ時間が掛かる。
脳のリバースエンジニアリングが進められている。要は、人間の脳の構造を完全に把握し、それを工学的に創りだそう、という試みだ。しかし、ボトムアップ型のアプローチもトップダウン型のアプローチにもそれぞれ難題があり、解決までにはまだまだ長い時間を必要とするだろう。
意識を持つロボットを生み出せるかどうかはまだはっきり分からないけど、遠い未来には、人間とロボットが融合するようになるだろう。つまり、負傷した手足などをロボットで置き換えるということは普通になっていくだろう。

「医療の未来」
近い将来、医者に掛かるというのは、自宅で人工知能のドクターにアクセスすることに変わるだろう。その人工知能は、あなたの遺伝子情報や病歴をすべて持ち、的確なアドバイスをする。それでも診断できなければ病院に行く、という形になっていくだろう。
クローン技術によって人間の臓器を生み出せるようになり、悪くなった臓器を交換するというやり方も増えていく。遺伝によって受け継がれる遺伝病も、根絶のためのプロセスを模索している人が多くいる。
人類にとっての最大の敵であるガンとの闘いも、様々なアプローチが生み出されている。遠い未来にあって治すことの出来ない病気は存在するだろうし、風邪なども特効薬は生まれないだろうが、今より遥かに多くの治療法が生み出されることになる。
「デザイナーチャイルド」や若返りなども、現実のものとなっていくだろう。しかし同時に、法規制も生まれるはずだ。

ここで凄く興味深かった話を二つ。
まず、「魔法の粉」の話だ。これは以前ネットで見て、絶対ウソだ!と思ったことがあるのだけど、本書で書かれているので本当らしい。これは、欠損した指が、その「魔法の粉」をふりかけるだけで再生するというものだ。条件は色々あるんだろうけど、これが本当に存在するテクノロジーなんだと知って驚いた。

もう一つ。科学的に延命効果が実証されている唯一の方法は、カロリー制限だそうだ。これだけは、ありとあらゆる動物実験で成功を収めているという。どうしても長生きしたいという人は、カロリー制限をするといいかもしれません。

「ナノテクノロジーの未来」
微細な原子一つ一つを組み合わせることで何かを生み出すナノテクノロジーは、新たな革命の一つになる可能性がある。実際にナノテクノロジーは既に様々な分野で応用されている。かつては、原子一個を見ることなど出来ないと考えられていたが、IBNの技術者がそれを可能にする顕微鏡を開発した。
ナノテクノロジーを駆使すれば、「ミクロの決死圏」のような血管をめぐるナノマシンや、数分以内に体内をスキャンしてくれるDNAチップ、原子のトランジスタなど、これまでの常識では考えられなかった様々なものを生み出すことが出来る。
インテルの技術者が創りだそうとしているテクノロジーには本当に驚いた。なんと、自由に形を変える物質を生み出そうとしているのだ。まさに「ターミネーター2」で出てきた、ぶるぶる震える水銀の塊のような、自在に形を変える恐ろしい敵のように。もしこの技術が実現すれば、子供たちはツリーの下でプレゼントの包みを開くのではなく、サンタクロースが電子メールで送ってくれたソフトウェアをダウンロードして、手元のおもちゃを別の形に変える、そんな未来がやってくるかもしれない、なんて書かれている。
ナノテクノロジーの聖杯は、レプリケーターだ。これは、原材料をマシンに投入すれば、あらゆるものを生み出すことが出来る機械だ。原理的には可能で、すでにインクジェットプリンターの技術を使い、生きた心臓組織を作る手法は開発されているという。

「エネルギーの未来」
これまでのエネルギーの歴史を振り返りつつ、有望なエネルギー源として、核融合と常温超電導が取り上げられる。核融合は、現在の核分裂による発電よりも遥かに安全であるが、まだ完成には至っていない。常温核融合を生み出した、というニュースは過去なんども飛び交ったが、すべてデマだった。常温超電導体は、ある温度以下だと抵抗がなくなるという超電導体が、僕たちの暮らす常温でも作用する物質で、まだこれも見つかってはいない。

「宇宙旅行の未来」
最も魅力的なアイデアは、ナノマシンによるものだ。これまでの宇宙探査は、一つの大きな機体を莫大なエネルギーをかけて打ち上げるというものだったが、ナノマシンによる宇宙探査は、非常に軽く安価なナノマシンを一度に大量に打ち上げ(軽いのでエネルギーもそこまで掛からない)、どこかの惑星にたどり着いたナノマシンがそこで自己増殖し、プログラムに従って形を変え、何らかのミッションを行うことだ。自己増殖するナノマシンを生み出すのはまだ遠い未来になるだろうが、そういう宇宙探査の可能性も開かれている。
しかし著者は、2100年になっても大半の人は地球に留まったままだろう、と書いている。

「富の未来」以降は、まだちゃんと読めていないので省略。

しかし本書を読んで思うことは、科学者というのは最もクリエイティブな仕事をしているのだな、ということだ。
一般にクリエイティブな仕事というのは、映画とか広告とか小説とか、パッとは思い浮かばないけど、要するにそういうものを指すだろう。科学者は、実験室にこもって何かわけのわからないことをやっているが、それが僕たちの生活に何か影響を及ぼすとは、多くの人はあまり想像していない。しかし、本書を読む限り、科学者の持つ想像力の豊かさには驚かされる。
科学者は、「物理法則に反していなければなんでも可能だ」と考える人種だ。タイムトラベルを禁ずる物理法則は存在しない。だから物理学者は、タイムトラベルを実現する方法を考えるし、実際に実現可能かどうかは別として、こうすればタイムトラベルが可能になるというアイデアは様々に存在する。
本書で描かれているアイデアも、僕らにとってはタイムトラベルとそう大差なぐらい荒唐無稽に思える。しかし、科学者はそれを本気で考えている。彼らは、「目の前の現実を理解する」という好奇心に駆られる一方で、「科学によって判明した事実を何に使えるか」ということも日々考えている。そうやってたくましい想像力を駆使した様々な結果が本書には書かれている。
本書の中にも、長生きをするためのテクノロジーについてページが割かれているけど、僕は正直長生きはしたくないと思っている人間だ。特に、長く生きることに興味がない。でも、こんな本を読んじゃったら、自分が死んだ後どんなテクノロジーが広まっているのか気になって仕方ないなぁ、という感じがする。実現するかはともかく、なんかワクワクさせてくれる未来がやってきそうな予感を抱ける作品です。是非読んでみて下さい。

ミチオ・カク「2100年の科学ライフ」


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感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

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