銀行は、貸付先の資産については、全て把握している様に思われています。
特に、期限の利益の喪失をするなど、貸付金が返済されないかもしれない状況になると、どんな資産がどこにあるのかについて、簡単に判ってしまうのだろうと思えてしまいます。
全ての資産の存在が債権者である金融機関にバレてしまい、差押えをされることにより無一文になるしかないという、そんなイメージがあるのですが現実は違いました、
この4月の民法改正までは、たとえ金融機関という債権者が手続きを踏んでも、簡単に債務者の資産を調べることは難しかったのです。
今回の民法の改正が、債権回収のスキームを大きく変えてしまう可能性があることは、以前のブログでもご紹介をいたしました。
債権者に知られるはずのなかった債務者の資産が、法的な手続きを踏むことにより、把握が可能になってしまったのです。
債権者が、債権回収を有効に実施する方法として、債務者資産への『差押』が挙げられます。
差押は、債権回収において、もっとも有効な手段であると共に、最終的な手段だともいえます。
債務者にとっては、驚異ともいえる手続きなのですが、差押の対象となる『資産』が把握できていないと、その効果を得ることかできないという大きな弱点があります。
債務者が、この事実を知っており、無い袖は振れないなどといった資産の保全を実施しておれば、差押はその効力を発揮できなくなってしまうのです。
現実に、資産の把握ができていないために、債権回収が出来ないという債権は、限りなく存在をしていました。
そうならないために、債権者は資産の存在を把握しようと、あらゆる手段を実施してきます。
代表的なのは、弁護士が弁護会経由で実施する『文書送達嘱託』という手続きで、裁判所に申立てをして銀行や保険会社に債務者の財産状況の開示を求めます。
効果的な方法に思えますが、申立てに手間がかかったり、銀行などが守秘義務を盾に開示しなかったりと、結果を残しにくかったのが現実ではなかったでしょうか。
そこで用意されたのが、平成15年の民事執行法改正により設立された財産開示手続になります。
財産開示手続とは、差押の対象となる債務者の資産を把握するために、債権者の申し立てにより、債務者を裁判所に呼び出し、裁判官の前で、どの様な資産を持っているか具体的に陳述させるものです。
この制度が施行された頃は、資産の存在が全て債権者に知られてしまうと大騒ぎになりましたが、実際には、ほとんど影響はありませんでした。
何故なら、裁判所に出頭をしなかったり、虚偽の陳述をした場合の罰則が僅か30万円だったからです。
多くの債務者にとって、財産開示手続によって債権者に知られてしまう資産の価値より、30万円の罰金の方が低いでしょうから、この罰則を払った方が得だということになりました。
したがって、効果的だと思われた財産開示手続は、存在はするが役に立たない手続きとして17年程放置されていました。
ところが、今年4月1日の民法改正により、財産開示手続をされたのに、虚偽の報告をしたり裁判所に出頭しなかったりすると、刑事罰となり、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金ということになってしまいました。
これだと、裁判に出頭しないわけにはいきません。
そして、財産開示手続に出頭し、正確な報告を述べることにより、不動産や預金口座の所在が債権者に知られてしまうことになりますから、債務者にとって生半可な影響ではないといえます。
民法が改正されてから半年以上経過し、財産開示手続は活用をされているのでしょうか。
調べてみると、財産開示手続の裁判所の呼び出しに出頭しなかった男性が、書類送検されたというニュースがありました。
これは10月のニュースで、初めての事例ということでしたが、それ以前も以降も、
他に財産開示手続に関するニュースは見当たりませんから、事件化されたのはこれだけということになるのでしょう。
私の関与しているご相談者でも、財産開示手続をされた事例が2件あります。
2件とも、金融機関からの借入が返済できなくなり、期限の利益の喪失をして、債権譲渡されたサービサーが申し立てしてきたものです。
私のご相談者は、時間をかけ根拠を明確にして、『無い袖は振れない』状況を確保されていますから、本来は慌てる必要などないのですが、初めてのことですから不安でした。
全てを再チェックし、万全な準備をして、全てを正直に目録として提出して、どんな質問をされるのかと想定をして臨みました。
ところが、内容を確認されただけで、ほぼ具体的な質問も無いまま、簡単に閉廷したのです。
ご相談者曰く『拍子抜け・・・』と、感じるほどあっけないものだったそうです。
財産開示手続は、まだ有効に活用されている状況にないのかもしれません。
しかし、この4月の民法改正により、極めて効果的な手続きになったことは間違いありません。
現実的に、今まで活用されていなかった財産開示手続が、この3ヶ月ほどの間に、私のご相談者だけで2件も発生しているのですから、債権者は債権回収手段として興味を持っているのだと思います。
今は、効果的な活用方法が判っていなくても、経験を積み重ねてくると、債務者にとって恐ろしい手続きになってくるでしょう。
我々も、よりレベルアップした、資産の保全対策が必要になります。
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